「包括的ダウンロード刑事罰化」(ダウンロードにはスクリーンショットも入る)とわたしが勝手に呼んでいる、著作権法改正に向けた委員会中間まとめパブコメにかかっている。第2章がその部分だ。

第1章のリーチサイト規制の充実ぶりと比べて、第2章は検討内容が生煮えで記述も貧相だ。それもそのはずで、これを審議してきた著作権分科会法制・基本問題小委員会は、2017年6月から1年以上かけてリーチサイト規制を議論してきた。しかし、「包括的ダウンロード刑事罰化」は2018年10月29日にとつぜん議題にのぼり、わずか1ヶ月の実質3回の委員会で中間まとめに押し込んだきたものだ。

こうなった原因は、漫画海賊版サイトのブロッキングが「知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)で委員の半数の反対で中間まとめすらできずに終わり、ブロッキングに代わる漫画海賊版対策として「静止画ダウンロード違法化」がこの委員会に委ねられたことにある。

「中間まとめ」43ページの「検討の経緯」のところをみると、知財本部タスクフォースで中間まとめがされなかったにもかかわらず、「中間まとめ案において、[静止画ダウンロード違法化を]直ちに検討を行うべき旨が盛り込まれるとともに」とある。まとまらなかったタスクフォースの「中間まとめ案」を、あたかも結論が出たかのように引用する姿勢は、大いに批判されるべきだろう。

漫画海賊版対策の静止画ダウンロード違法化だったものが、書籍・写真・論文・プログラムまで含む包括的なものに、すぐに化けたことはすでに書いた。さて標題の「主観要件」だが、今回の改正案のキモのひとつは、ユーザーが海賊版だと「確定的に知っている場合にのみ」ダウンロードに刑事罰をつけることにある。「違法だと当然に知っているべきだった」「違法か適法か判断がつかなかった」はダウンロード違法にはならない。

一見するとかなり厳格な基準で安心なようにも思えるのだが、落とし穴はありはしないか。いったい、個人の主観をどうしたら確定できるのか、この改正案はザルなのか、はたまた自白に頼るのか、いろいろ考えてみた。呆けてきた頭で思いついた、ユーザーの主観を客観化したとしうる方法は、いまのところひとつしかない。海賊版サイトのリストを作り、ISPがそのリストにある接続先にユーザーが行こうとすると警告を出し、それを無視して進んだユーザーは、海賊版だと「確定的に知っていた」とすることができかも、ということだ。この方法なら、アクセスした者を特定するためのログまで取れてしまう。だがしかし、これはISPにばかり負担をかける方法だ。(2018.12.24追記:しかしこの方法でも、ユーザーがスクショしたことまでは証明できない。)

議論がここにいたったルーツのひとつは、知財本部のタスクフォースで宍戸常寿教授が提案した「アクセス警告方式」にありそうだ。これは、まず静止画ダウンロードを違法化し、ISPとの約款で警告が出ることにユーザーに同意してもらい、「海賊版サイト該当性が公正に判断された」サイトに行こうとすると警告を出す方式だ。ブロッキングよりも危険性が少ない抑止策として提案されたものだ。

タスクフォースのときには、刑事罰化までは想定していなかったはずだ。また、「海賊版サイト該当性が公正に判断」されることが重要なのだが、ここをどうコントロールするのか、権利者側の言い分が一方的に反映されてしまわないようにする仕組みの構築は見通せていない。また、法的にはクロなのだが文化の発展のためには「お目こぼし」もありうる領域の「海賊版」を守れるかという不安もある。「海賊版サイト該当性」を判断する人が、法律一辺倒だとどうなるのか。これまでの研究で、創作の「現場」と「法務」の感覚の違いを感じることが多いのも事実だ。

しかしそれでも疑問なのは、たとえ警告が出たとしても、そこが海賊版サイトだと考えていない、というのがユーザーの「主観」だった場合どうなるのか。最悪、権利者が作ったリストでもってユーザーの「主観」が認定されることになりはしないか。具体的には、パロディ作家のサイトなどがこれに該当するかもしれない。

「中間まとめ」64ページには、違法化を「(ウ)「原作のまま」ダウンロードを行う場合やデッドコピーの場合に限定する」という案も検討されたと書かれているが、66ページをみると「(ア)〜(エ)のような形で新たな限定を行うことが適当と言える状況にないと考えられる」と、デッドコピー限定をほぼ全否定している。パロディは危ない。

「包括的ダウンロード刑事罰化」が実現してしまわないようにするのは、「いま」しかない。法案が国会に上がってからでは、いくら騒いでも遅い。いまやっているパブコメに意見を送って、こうしたことに影響が出るといった具体例を示すのが効果的だと思う

66ページには、「パブリックコメント等を通じて、事務局において引き続きユーザー保護が必要となる事例の有無について更なる検証を進めることが適当である」とある。委員会としても事例を広く集めたいのだと思う。それにはネットユーザーの協力がいるのだ。