2019.01.21

トランプはいま、北朝鮮攻撃の計画を密かに練っているかもしれない

これまでの「パターン」を考えると…
山田 敏弘 プロフィール

誰も止める人がいない

またケリー退任に加えて、2018年末にはもうひとつ、米政府内の良識派たちが大きなショックを受けるニュースがあった。ジェームズ・マティス国防長官の辞任である。

マティスは、軍の政策と歴史にも精通し、人望が厚い国防長官だった。トランプ政権がカオス状態にあるなかで、マティスは政権内に安定をもたらしていると評されていた。またダン・コーツ元国家情報長官によれば、国外においても「マティスのリーダーシップは、同盟国と敵国から尊敬されていた」という。

マティスは北朝鮮攻撃については慎重であり、トランプに攻撃を思いとどまらせてきた。マティスが退任したことで、ある国防省の元幹部は米メディアに「クレイジーなトランプがいても、マティスが国防相を仕切っていたから夜はゆっくり眠れたのに……」と語っていたが、今後、彼らは夜も眠れなくなるかもしれない。

実は、マティスがいたことで安心していたのは政府関係者だけではない。メディアも然り。マティスには、国防長官になる前に、とある詐欺企業の活動に関与していたというスキャンダルがあったのだが、メディアではあまりこの詐欺企業への関与を深く追及しないふしもあった。

ある米大手誌の記者は、「もちろん申し合わせがあるわけではないが、同業者と『マティスが辞めたら困るから深追いしない』という話をしたことがある」と筆者に語っていたことがある。

 

トランプは国防に関する話であっても、マティスなどに相談もなく、突然新しい方針を思いつく。いきなり宇宙軍を創設するよう命じたり、米韓軍事演習を中止すると勝手に決めてきたり……国防省の関係者はいつも不意打ちを食らわされていたという。

さらにツイッターでも、メキシコ国境への派兵、トランスジェンダー(性同一性障害)の禁止、軍事パレードの実施、そしてマティスが退任を決めたシリアからの米軍撤退を突然つぶやいたりーー。マティスが「もう付き合いきれない」と思ったのも無理なかろう。

ケリーやマティスといった良識派の辞任に加え、中間選挙の結果で議会はねじれ状態になっている。予算問題で連邦政府閉鎖の可能性が取りざたされているが、自分の政策を思うように進められないトランプが、これまで以上に強硬な態度に出る可能性はある。また、ロシア疑惑の弾劾などで窮地に追い込まれることがあれば、国民の目をそらすために、再度北朝鮮との対立を煽る可能性はある。

先日話を聞いた元米政府関係者は、「国内政策ではこれまで、裁判所とマスコミがトランプを牽制してきたが、中間選挙によって、それに議会が加わった。国内で身動きできなくなったトランプが国外で騒ぎを起こす可能性は高い」と語っていた。

トランプは2017年にシリアを空爆しているが、このときは攻撃の少し前に、共和党の一部メンバーにはその攻撃予定を伝えていた。一方で、連邦議会からも国連安保理からも承認を得ることなく攻撃を行った。つまり、何かの理由をつけて先制攻撃を行うことは、十分にありうる、ということだ。

関連記事