文化の種を植える 〜 南畑小の制作体験のこと(前編)
那珂川市立南畑小学校は、福岡県那珂川市の埋金(うめがね)という地区にある。
南畑地域にある小学校はここ一校で、全校生徒は80名(令和2年11月現在)。
1学年1クラスで、1つのクラスには10数名の生徒が在籍している。
この学校では「図画工作」科や「総合的な学習」の時間に、美術の制作体験の授業がある。
内容は学年ごとに違っていて、そのラインナップがこちら。
一年生: ステンドグラス
二年生: 草木染め
三年生: 焼き板とストーンペインティング
四年生: ランプシェード
五年生: 物掛けづくり
六年生: 陶芸
豪華。こんなふうに全学年で制作体験の授業があるのは、県内でもここだけだそうだ。
各授業に「先生」として登壇するのは、地元の作家さんたち。
うち4名は、このサイトにも登場する作家さんだ。
そもそもこの授業は、20年ほど前、当時の校長先生が、草木染め作家の甲木惠都子(かつきえつこ)さんに
「子どもたちのなつかしい思い出になり、郷土への誇りを持ってもらえるような授業ができないか」
と相談したのがきっかけ。その思いに感激した甲木さんが快諾し、その後、趣旨に共感した作家さんたちが一人、また一人と増えて、いまの形になったという。
いまや「お母さんもこの授業を受けた」と話す子もいる名物授業。
先生方も「時代が変わってもこの授業だけは守りたい」と話されていて、並々ならぬ熱量を感じる。
と、前置きが長くなったのだけれど、ふだんは見られない授業の様子をすこしだけご紹介します。
一年生:ステンドグラス(後藤ゆみこ先生)
一年生が取り組むのは、ステンドグラスの作品制作。
僕たちは全三回の授業の最終回にお邪魔した。
先生は、ウェーブGグラス工房の後藤ゆみこさん。
子どもたちは、前回までに実に美しいステンドグラスの飾りを完成させている。
一年生が作ったとは思えないクオリティだ。
そして、この日の授業では一輪挿しの台座を作る。
後藤先生から作業の説明があった後、子どもたちは好きな色のガラス片を選んで、台座にのり付けしていく。
作業をはじめると、子どもたちはみるみる「作家」になっていく。
このあとの学年でも同じことが起こるのだけれど、子どもが「作家」になるとき、教室がしん、として静かになる。ガラスを選んでいるときにはあんなに賑やかだったのに、突如、静寂がおとずれる。
そして、ちいさな作家たちが作業に困ったとき、そこには後藤先生がついている。
やさしく、あたたかく、一年生に色の美しさ、ステンドグラスの楽しさを伝える後藤先生。
授業が終わる頃には、すっかり人気者になっていた。
二年生:草木染め(甲木 惠都子先生)
二年生が体験するのは、草木染め。
先生は、冒頭ご紹介した甲木惠都子さんだ。
ホワイトボードには「めあて」として、この日の学習目標が書かれている。
「身近な自然の命をいただいて」とあるように、この授業では、ただ染め物を体験するだけでなく、50年以上の染色家人生の中で、甲木先生が大事にされてきた自然とのかかわり方が伝えられる。
たとえばそれは、一年に一反ぶんの植物しか採らないことであったり、那珂川の自然環境の素晴らしさであったり。
これから大人になっても自然を大切にする気持ち、那珂川を誇りに思う気持ちを忘れないでほしい。そんな願いが込められた授業になっていた。
この日、二年生の子どもたちが取り組んだのは、クサギという植物の実とタマネギの皮による染色。
こんなふうに布の数カ所をゴムで縛って、割り箸につけ、沸騰した鍋の中に(おそるおそる)つけると……
じゃん!こんな感じに染まる。
茶色いのがタマネギの皮で染めたもので、青いのがクサギの実で染めたもの。草木の実や皮を煎じただけなのに、こんなに鮮やかな色が出るのか(!)
「どんな植物から、どんな色が出るか」
その興味は染色をはじめた時から今に至るまで、ずっと消えないと甲木先生は語る。
子どもたちからの素朴な質問にも楽しそうに答えられていて、甲木先生もなんだかいきいきしている。素敵な時間だった。
(そうそう、この日は先生のお誕生日でもあったんですよね!)
三年生:焼き板とストーンペインティング(今村 清美先生)
三年生が挑戦するのは、焼き板とストーンペインティング。
先生として登壇されるのは、近所に住む木工名人、今村清美さん。
今村先生が手に持っている木の板。
これは那珂川のイチョウの木だそうで、この板に高熱のペンで絵を入れていくのが「焼き板」。
三年生たち、もう夢中になってる。
「作家」になっている時の、子どもたちの姿勢や目つきって、本当に美しい。
彼らの情熱に呼応するように、今村先生のサポートにも熱が入る。
そうして焼き板が終わると、次はストーンペインティング。
使う石は、自分たちで那珂川の河原に行き、拾ってきたものだ。
子どもたちは、石の形からイメージをふくらませて、色をつけていく。
彼らがつくっているのは、あのアニメのキャラクターかな。
これらの石は最終的にのり付けして、立体になる。
そして、どの授業でも、最後に感想を共有する時間がある。
作家として「非言語」の世界に潜った後は、それをきちんと言葉にするのだ。
子どもたちは自分たちなりの語彙で、制作体験の熱と今村先生への感謝を懸命に伝えようとしていた。
最後の最後は、先生のお見送り。
「ありがとうございました!」と叫びながら、外に出て、姿が見えなくなるまで手を振る。
この授業に参加する作家さんたちは「地域のためになれば」という思いで集まった方ばかりだ。
そんな思いが授業を通して伝えられ、子どもたちはこうして玄関に並び「感謝」という形でそれを返す。
中には「なんでここまでするのだろう?」と思う子もいるかもしれない。
でも、こうして思いと思いでつながる経験をしたことは、将来きっと財産になる。
そんなことを思いながら、手を振る子どもたちの背中を見ていた。
そして、簡潔なレポートで終わるはずだったこの記事も、その思いに打たれて、どんどん長くなっていくのだった。
(続く「中編」では、高学年の授業の様子をご紹介します!)
取材と撮影:藤本 千尋、澤 祐典、文章:澤 祐典、編集協力:川嶋 克