「絶対女性とやろうと決めていた」 アフリカで起業した1人の女性の決断
RICCI EVERYDAYの仲本千津さん(下段右端)とウガンダの工房で働く職人の皆さん

「絶対女性とやろうと決めていた」 アフリカで起業した1人の女性の決断


「新時代の旗手においで頂きました」――。

2019年8月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD)の場で、安倍晋三首相が基調講演で紹介した1人の女性起業家がいる。ウガンダ発のバッグ・ブランドRICCI EVERYDAYを展開する仲本千津さんだ。シングルマザーや元子ども兵が職人として働く彼女の工房は、アフリカンプリントの布地から色鮮やかなバッグを次々に生み出している。エシカルファッション(社会問題に配慮した製造過程を経たファッション)の広がりを背景にRICCI EVERYDAYも人気を集め、昨年は都内に旗艦店を構えるまでに成長した。

仲本さんは大学でアフリカ政治を学んだ後に大手都市銀行に就職、そして開発途上国で農業を支援するNGOを経てウガンダでの起業にたどり着いたユニークなキャリアの持ち主。女性の社会起業家としても注目を集める彼女に、その節目で重ねてきた決断や、アフリカで働く「外国人女性経営者」ならではの悩みや日本の現状などについて聞いた。

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アフリカで女性経営者であること、外国人経営者であること

―ウガンダで起業されましたが、実際に住んだアフリカの印象はどうでしたか?

仲本千津さん(以下敬称略):うーん…意外と普通だなと思いました。行く前は都市部も砂漠っぽいというか、うまく言えませんがもっと凄まじい環境だと想像していたんです。でも行ってみたら私の実家がある静岡よりずっと栄えていた(笑)。緑も思ったより多いし、食べ物もおいしく人も優しい。期待値が低かったので、意外とちゃんと暮らせそうだなと、プラスに捉えることの方が多かったですね。

―ウガンダ社会での女性進出の度合いはどうですか?

仲本:都市部の女性、それも知識層で言えば日本に比べて社会進出の度合いはずっと高いです。共働きは当然だし、ベビーシッターを住み込ませている家庭も普通です。企業や政府機関でもマネジメント層の女性は多く、採用や地域オフィスのトップ人事を決めるときはジェンダーバランスが必ず考慮されています。

けれど、農村部になると全く話は別です。農作業や家事・育児は全部女性に押し付けられている一方、家庭内の意思決定者は男性。コミュニティの集まりでも、女性は男性の影に追いやられています。

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―そんなアフリカで、仲本さんは女性で、しかも外国人でもある経営者です。不利だと思われたことはありましたか?

仲本:先ほどと矛盾するようですが、女性進出が進んでいるとは言え、やっぱり女性であることは不利ですね。その上アジア人は若くみられがちです。男性ですら髭を生やして年齢を上に見せるのに、私みたいな感じだと「ティーンエイジャーだろ」って完全に見下されてしまう。それにウガンダ人からすると外国人は「部外者」です。実際に、「外国人は俺たちのことに口を出すな」って言われたこともあります。「部外者」という視線は、起業してから時間がたってもあまり変わらないですね。

―そういった環境に、仲本さんはどんな風に向き合っていったのですか?

仲本:女性であることや若く見られがちな点については、論理立てたコミュニケーションで突破していきました。論理的にと言っても正論を振りかざすだけでは相手のプライドを傷つけて、かえって頑なにさせてしまう場合もあります。なので表面上は柔らかいコミュニケーションのスタイルで伝えていくことを意識しています。

外国人は部外者という点については、きちんと認識を持っておくことが大事だと思っています。そこを見誤まったり悪目立ちすると見くびられたりいじめられたりと、「フラグ」が立ちやすくなってしまう。うちの会社もウガンダで始めてから4年が経ち、町でバッグを持っている人をよく見かけるようになりましたが、工房には看板も出していません(下写真)。外国の企業だから目立ちやすいし、それがきっかけになって恨みを買いやすいということはあるので、気を付けています。

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絶対女性だと決めていた

―RICCI EVERYDAYはスタート当初から、シングルマザーを職人として雇用してきました。女性を雇おうと思ったのはなぜでしょうか?

仲本:きっかけはNGOで働いている時の経験です。仕事の中で、女性の農業組合をサポートする事業があって、その時に女性の連帯力や、みんな働き者だなということを感じました。研究でも開発途上国の女性は特に、収入を得ればそのほとんどを家族やコミュニティのために使うということが分かっていました。だから社会をちょっとでもいい方向に変えるなら、絶対女性と一緒にやりたいと思っていたんです。

シングルマザーばかりを雇ったというのは、実は意図したわけではありません。採用してみたら全員がそうだったいう結果論で、「シングルマザーって、こんなにいるの?」とむしろ雇ってから初めて社会問題だと気づいたんです。

―同じ女性の経営者として、RICCI社員の女性たちとのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

仲本:さっきアフリカの女性について2つのタイプの話をしましたが、うちの工房で働いているのは「後ろに追いやられている方の」女性たちです。都市部の女性ではありますが、低賃金で誰かにこき使われてきた人たちです。ですから自分のスキルを生かしたり、生活レベルがあがる(注:RICCIの給与は地元企業の2〜4倍)ことから、外国人経営者であってもうちの会社に入ること自体に抵抗はないようです。

入社後のコミュニケーションで言えば、例えば彼女たちの状況をよく把握して、どこに不安を感じているのかを周りにも聞きながら探り当てることを大事にしています。そして子供の学費が足りないなら無利子ローンを提供するとか、解決策を考えます。あとは感謝の気持ちを示すことを忘れないようにするとか、ちょっとした働きかけの積み重ねがやっぱり関係づくりのために大切だと思っています。でも、私自身も彼女たちの悩みや生活ぶりを聞くと学ぶことが多くあります。だから彼女たちをサポートすることで自分もサポートされているような感覚があるんです。

―お話を伺っていると、とてもオープンな印象を受けます。先ほどおっしゃっていた女性同士の連帯感もあって、「女性ならでは」な職場という感じもします。

仲本:確かにそうですね。女子同士だからこそのネチネチした問題も時にはありますが、不安に思うことは地域・世界共通のことも多いです。お互いに持ちつ持たれつ、支え合いながら仕事をしていると感じますね。

ただ、経営者という立場では女性たちと良い関係を築けていると思いますが、プライベートの問題にはあまり口を挟まないようにしています。先程の「外国人であること」の話ではないですが、お互いの文化が違うのに私の価値観を口にして、彼女たちを無駄に傷つけてもいけないと思いますし。私が話の輪の中に入っていくところ、そうでないところはきちんと見極めて線引きをするようにしています。

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飛び込んでやってみる。諦めないでやってみる。

―大企業の会社員から始まってアフリカでの起業という、少しイメージしづらいキャリアを積まれていますが、どんな流れでそうなったのですか?

仲本:学生時代から国際協力や開発経済に携わりたいと思っていて、大学院ではアフリカの政治について研究していました。その頃、NPOでインターンをする機会がありました。社会課題の解決と言えば、国際機関や草の根で活動するNGOの役割だと思っていた私に、そこでの仕事はビジネスの手法でアプローチすることを教えてくれたんです。その経験は衝撃的で、大学院を卒業する頃には30歳までに自分で社会課題解決のための事業を立ち上げようと考え始めました。

その頃ちょうど銀行から内定をもらい、「30歳で起業」の目標から逆算すると、会社経営に必要な財務の知識や組織の仕組みを、そこでなら学べるかなと思ったんです。ということで銀行には、言葉は悪いですが「社会見学的」に入社しました。その一方で、アフリカで何かやろうと思うなら現地で暮らす経験をどこかで持った方がいいともずっと考えていたので、時期を見てアフリカの現地勤務があるNGOに転職し、そこから今に至っています。

―アフリカで起業するというのは、とても大きな決断に思えます。不安はありませんでしたか?

仲本:もちろんありました。でも私にとっては、不安に押し潰されることより、やらずに後悔することの方が怖かった。不安を持ちながらも進んでみて、その決断を良かったと思える方向に持っていくことの方が大事だと思ったんです。「決断すること」そのものよりも、その先をきちんと諦めずに進むことの方が大事なんだなというのが、この経験からの学びでしたね。

とはいえ実際に起業に向けて、給料をもらう立場を離れる時は怖かったです。だからいきなり起業した会社一本でやっていくことはせず、NGOの仕事を続けながら始めることにしました。その間にいくつか自分の中でチェック項目を作って検証していったんです。例えばアフリカの女性職人のモノ作りのレベルは高いのかを試作品からチェックしたり、お客さんのバッグへの反応を展示会やポップアップストアで確かめたりといったことです。もしもそれが検証できていなかったら、今でもNGOで働きながら「二足のわらじ」を続けていたかもしれません。

―「諦めずに進む」と言われましたが、「諦めないこと」は仲本さんにとって大事なのでしょうか?

仲本:ビジネスをやる中で、自分ほど事業のことを本気で考えている人は他にいません。だから自分が責任を放棄したら、事業はそこで終わってしまう。でもこれって逆に言えば、自分さえ諦めなければ事業は続いていくってことなんですよね。困難な選択を迫られた時、私が諦めて「やめる」って言ってしまったら会社は潰れるしかない。それはできない。諦めないで粘り強く、可能性を探っていくことが大事なんだと、起業してから学んだんです。

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「支え合いながら、諦めずにやっていく」ことが大事

―日本では今、ジェンダーギャップ指数においての日本の順位の低さ、特に政治と経済の分野での男女格差が問題になっています。アフリカにいる仲本さんの目には、日本の現状や社会はどのように映るのでしょうか?

仲本:誤解を恐れずに言えば、「致し方ない状況だよな」と思います。日本では政策決定者の中で、女性の数が圧倒的に少ないですよね。法律・政治・国会、全て男性が作ってきた、男性に優位なシステムや社会だと思います。その中で女性が合わせようとして頑張れば、「名誉男性」と揶揄されるようなこともある。ビジネスで言えば、女性を押し上げようと努力する企業も多いと思いますが、一方で社会にアピールするためだけにやっている企業も多いように見えます。

―そんな中でも女性たちが現状を改善していくために、何をすることが大切だと思われますか?

仲本:私自身の話ですが、銀行に就職した時、仕事と家庭を両立しているロールモデルになるような30代くらいの女性の先輩ってあまりいなかったんです。その中で私たちは自分なりの仕事の仕方、バランスの取り方を編み出さねばならなかった。その時と同じように女性たちは自分なりの方法を編み出し、社内外の同世代の仲間と連携し、外部サービスなんかも使っていきながら、どうにかして仕事と家庭の中で生き延びていくことが必要なんじゃないかと思います。支え合いながら、でも諦めず、今いる立場で結果を出していくことが大事なんじゃないかと。

社会の側で言えば、日本は失敗したりチャレンジすることを恐れている人が多いように見えます。でも失敗は起こったら起こったでいいし、またやり直せばいい。失敗から生まれる化学反応もあるし、前向きに進むきっかけになるかもしれないじゃないですか。だからフィンランドの女性首相じゃないですが、女性が責任ある仕事を担ったり、もっと挑戦する場を作り出したりしてもいいと思うんです。

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うちの工房でも、女性たちにどんどん責任ある仕事を任せるようにしています。そうした役割を担ったことがない人が大半なので最初は戸惑いますが、何か問題が起きたら、それはマネジメントの責任であることや「失敗しても大丈夫」と伝えながら任せれば大抵うまくいくものです。すると今まで内に秘めていた彼女たちの才能が開花し、仕事の進め方で積極的に提案も出るようになって、より働きやすくなる。こんな流れを女性がいる職場で、日本の職場でも実現していけるといいんじゃないかなと思います。


−聞き手は佐々木希世(Kiyo Sasaki)

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「支え合いながら、諦めないでやっていく」仲本さんの働き方、あなたはどう感じましたか?コメント欄にて、ぜひ感想やあなたの働く上で大事にしていることなど、お聞かせください。

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事業責任者としてのお言葉、とても共感する部分が多いです!やってみた後悔よりもやらなかった後悔は大きい、という感覚も起業した時に感じたことでしたので、これからも粘り強く前に進むことに集中していこう、と励まされました!

Jacob Owane

Student at Uganda College of commerce Tororo

4y

お仕事ありがとうございます!

Jacob Owane

Student at Uganda College of commerce Tororo

4y

すばらしい

Ivan Campos

Técnico em contabilidade at E E P S G Dr. Alarico da Silveira

4y

おめでとうございます。味方の素晴らしい態度、関連性と品質の社会的行動による生産性に感謝します。 すべてに多くの光と成功。

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