中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立

【モスクワ=小野田雄一】中国の投資会社が今月、ウクライナの航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の株式の過半数を取得しながら同国政府の妨害で経営に関与できず巨額の損害を被ったとして、同国政府に賠償を求める訴訟を起こすと警告した。中国は同社の軍用エンジン技術の取得を目指しているとされ、米国はウクライナに技術流出への懸念を伝達。事態は中国の軍事技術獲得へのこだわりと、激化する米中対立を浮き彫りにした。

ウクライナ最大の民間通信社ウニアンが18日までに報じた。同国政府に訴訟を警告したのは中国企業「北京天驕航空産業投資有限公司」(スカイリゾン)。同社の王靖代表は中国共産党や人民解放軍に近いとされる。警告で同社は、ウクライナ政府の妨害で議決権が行使できず経営に障害が生じ、35億ドル(約3700億円)超の損害を被ったと主張。事態解決のための交渉を同国政府に要求し、応じない場合は賠償請求訴訟を起こすと警告した。提訴先の裁判所や請求額などは明らかになっていない。

モトール・シーチはウクライナを代表する大企業で、旧ソ連時代からソ連と後継国ロシアに軍用機やヘリコプターのエンジンを供給。しかし2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合でロシアとの取引が困難となり、経営が悪化した同社は17年、中国企業と合弁工場の設立計画に合意するなど中国との取引を拡大させていた。

ウクライナ治安当局は同時期、モトール・シーチと中国の関係について捜査に着手。その結果、同社株式の計56%がスカイリゾンなど複数の中国企業に取得されていたことが判明した。治安当局は国家の安全保障リスクを理由に、取得された株式に基づく議決権の一時凍結などを同国の裁判所に請求し、認められた。

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