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line スタジオジブリは2004年2月、堀田善衞氏の著作の3作品を復刊し、堀田氏が出演した「NHK人間大学」などの番組をビデオグラム化します。このWEBサイトは、その書籍とビデオグラムを紹介するサイトです。
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表紙 > スタジオジブリと堀田善衞
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*鈴木敏夫プロデューサーが語る堀田善衞さんとスタジオジブリ
きっかけは『天空の城ラピュタ』
鈴木プロデューサー

どうして故・堀田善衞先生の作品をスタジオジブリが出版・ソフト化するのか? と疑問を持つ方もいらっしゃると思うので、ここでは堀田さんとスタジオジブリのこれまでの関係についてお話ししたいと思います。

もともと宮崎駿監督は堀田さんを非常に尊敬し、作品も熱心に読んでいましたし、僕も堀田作品の読者でした。どちらも一読者、一ファンだったのですが、具体的にお目にかかることになったのは『天空の城ラピュタ』(1986年)を制作している時のことです。

その時、僕は徳間書店で編集者として『天空の城ラピュタ GUIDE BOOK』という本を編集していました。僕はそこに堀田さんに原稿を書いていただけないか、と考えたのです。そのことで、制作現場で頑張っている宮崎監督を励ましたいと思ったんです。

そこでご連絡をさし上げたのですが、徳間書店はそれまでお付き合いがあった出版社ではないし、なかなかOKしていただけない。ようやくまずはお会いできることになったんですが、ではどんなふうに話を切り出せば、原稿を書いていただけるだろうか。ずいぶん考えました。そこで無手勝流でいこうと腹を決めて「堀田先生は、これまで人間とは何かという問題について書かれてきました。ならば人類が今後、どうなっていくのかについても書かれる義務があるんじゃないでしょうか」とあえて大上段に切り出したんです。堀田さんは、これを聞いてお笑いになりましたね。

そして書いていただいたのが「アニメーションを作る人々へ」というエッセーです。冒頭に「アニメーションを作る人々から、“人類の運命について”という趣旨で文章を書け、などと言われようとは想像もしないことであった」とあるのは、こんなやりとりがあったからなんです。この原稿が『GUIDE BOOK』に掲載されることは、宮崎監督にはずっと黙っていました。完成した本を見て驚かせたいという、僕なりのサービス精神です。

天空の城ラピュタ GUIDE BOOK
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『天空の城ラピュタ』の公開に先駆けて出版されたガイドブック。制作の様子を伝えるルポや宮崎駿監督の座談会などが収録されている。表紙に堀田善衞の名前がちゃんと掲載されている。

原稿を書いていただくにあたって、僕たちがどんなことをやっているか知っていただこうということで『風の谷のナウシカ』をご覧になってもらおうと、当時都内にあった堀田家のマンションにビデオデッキとソフトを持ち込ませていただきました。堀田さんも『モスラ』の原作をやられたりしていますから、きっと楽しんでいただけるんじゃないかと思っていました。堀田さんはその時、片方の目が不自由で、もしかしたら途中で疲れてしまって全編見られないかもしれないと奥様からは申し渡されていましたが、最後まで興味深そうに見てくださいました。その時に非常に印象に残っているのは、王蟲が登場すると、抑えた声で楽しそうにクックックと笑っていらしたことです。

あと慌てたのは、ナウシカが王蟲の大群に跳ね飛ばされたところで、映画が終わりと思われた堀田さんが「うむ、おもしろかった」と言って席を立たれようとしたことですね。立たれようとする堀田さんに「まだ、続きがありますから」と言って最後まで見ていただいたら、「ああ、生き返るのか」とおっしゃったことをよく覚えています。

この時にはもう一つ、忘れられないエピソードがあります。

僕は堀田作品の中でも『路上の人』が好きなんですが、初めてお目にかかったこの時、この本はまだ出版されたばかりでした。『路上の人』の感想を堀田さんにお話しして「僕はこういうのをアニメーションでやったらおもしろいと思うんです」といいましたら、堀田さんがあっさりと「じゃあ、この作品の映画化権を君にあげるよ」とおっしゃったんです。その言い方があまりに簡単なので僕はびっくりして、「でも、これ作るとなったら大変ですから」と答えたら「君は知らないかもしれないが、ヨーロッパでは古今の有名な物語を絵物語にしていて、中には結構おもしろいものもあるんだ。それにひとつのことを一般に広めるにはそういうのは有効な手段だと思う。あんな程度でいいから、ひとつ簡単に作ればいいんだよ」とさらにおっしゃるんです。

エッセー「アニメーションを作る人々へ」でも触れられていますが、堀田さんは実は長く住んでおられたスペインのTVで『宇宙戦艦ヤマト』を全部ご覧になったこともあるような方で、この時も「僕はね、案外そういうものが好きなんだよ。是非、『路上の人』を作ってくれたまえ」と言ってくださったんです。



次にご縁があったのが『時代の風音』という本をつくった時です。ある雑誌から宮崎監督にインタビューの依頼があったんですが、どうせやるならば、宮崎監督が尊敬する堀田さんと、好きな作家である司馬遼太郎さんの鼎談ができたらおもしろいんではないかと、こちらから逆に企画をもちかけてでき上がった単行本です。この企画が実現し、東京と大阪で二回、それぞれ4〜5時間かけて鼎談をしました。この時の宮崎監督は、二人の作家に囲まれて、本人もあとがきで書いている通り書生のようで、とても緊張していましたね。

この時に驚いたのは、堀田さんが鼎談の原稿に一カ所しか手を入れられなかったことでした。普通、こういう場合は、赤字で修正をいろいろといれて、発言をなかったことにしたり、話題を追加したりする方が多いんですが、堀田さんはそういうことを一切なさらなかった。僕はとてもびっくりして奥様にそのことを話したことがありますが、奥様は「そこで語ったことには全責任を持つ、というのが堀田の態度なんですよ」と説明をしてくださいました。これには感動しました。

実はこの鼎談の時には忘れられない思い出もあります。大阪で鼎談が終わった後、堀田さんのお部屋にお邪魔していろいろお話をうかがったんです。話も終わりに近づいた頃、読み終えたばかりだった『ゴヤ』の話を僕のほうからしました。「先生。日本人であるにもかかわらず、全く異国のスペインの画家の伝記を書くという試みは、客観的に見てみるとまるでドンキホーテのようですね」。こう言うと堀田さんはすかさず「君と同じことを言ったやつがもう一人いるよ」とおっしゃっいました。ちょっとした好奇心で「それは、誰ですか?」と尋ねると「君、サルトルだよ」と。まさか、大哲学者の名前が出てくるとは思いませんから思わず絶句してしまいましたけれど、一方でとてもうれしかったです。

忘れられないといえば、堀田さんの奥様も印象深い方でした。『時代の風音』のカバーが出来上がってきた時のことです。カバーのデザインは、宮崎監督の描いたイラストの真ん中に赤いひし形を置いたもので、そこにタイトルが書いてあるんです。これでは絵を殺してしまっていると思い、担当編集者に「これはひどい。修正してくれ」と話をしたんです。そうしたら、なんと奥様から僕のところに電話がかかってきたんです。

奥様は「担当者の決めたことに、横から文句を言うのはよくない」とおっしゃるんですね。こちらはこの本の企画者でもあるし、ああいう絵の扱いは失礼だと思ったから変更を申し入れただけで、何もおかしなことをしたつもりはない、と説明をしましたが、会話は平行線。2時間ぐらい延々とやりあったでしょうか。さすがの僕もあきらめて折れました。そうしたら奥様が最後に「最初からそう言えばいいのよ」(笑)と言われたんですよ。その時は、本当に「憎たらしいことをいう方だな」と思ったんですが、それで奥様とは親しくなれたのだから不思議なものです。

時代の風音
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堀田善衞、司馬遼太郎、宮崎駿の鼎談を収めた「時代と風音」(UPU)。現在は朝日文庫より発売中。

先日、堀田さんの七回忌と奥様の三回忌が合同で行われた時に挨拶をさせていただいて、このエピソードを披露しましたら、長女の百合子さんをはじめ、関係の方々が大笑いしてくださいました。



このようないきさつがありまして、鼎談の後ぐらいからでしょうか、堀田さんが亡くなるまで、毎年お正月、松の内が開けたころ、宮崎監督と僕と二人でお宅に新年の挨拶にうかがうことが恒例になったんです。全集が完結した時には、堀田さんが生涯でただ一度だけ開かれた出版記念パーティーにも、二人で出席させていただきました。

1998年に堀田さんが亡くなられ、2001年には奥様も亡くなられましたが、今回はこういうお付き合いがあったことから、スタジオジブリで堀田さんの本を出版することを決めたのです。最初は「NHK人間大学 時代と人間」の番組をビデオグラム化し、全集にも収録されていないその番組のテキストを単行本化するという企画だったのですが、どうせならばもう入手が難しい本の復刊もしようということで、長編『路上の人』と短編集『聖者の行進』の2冊も出版するということになりました。


自分が好きな作家には幻滅するから会わないほうがいいとも言います。が、堀田さんは、実際にお会いしても、作品を読んで受けたイメージと、まったく違うところがなかった唯一の人でした。こういう時代だからこそ、若い人にぜひ読んでもらいたい作品の数々です。 (談)

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