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新型肺炎の封じ込めに成功したベトナムの意外な秘密 英国ではマスク広告を禁止

木村正人在英国際ジャーナリスト
私たちができる一番の新型コロナウイルス対策は手洗いだ(写真:アフロ)

コロナ退治を歌に乗せ

[ロンドン発]感染者16人を回復させ、今のところ新型コロナウイルスをシャットアウトすることに成功したベトナム保健省のポップな「手洗い励行」の替え歌が秀逸だと世界中で話題になっています。アメリカの衛星・ケーブルTVでも紹介されたほどです。

「最近ホットなウイルスが流行っているんだ。その名はコロナ。(略)私たちにも責任がある。手を洗おう、ゴシゴシ隅から隅まで。目や鼻、口は絶対にいじっちゃあいけないよ。人混みに行くのも減らそうよ。コロナ、コロナ、ウイルスを追い払え」

MinさんとErikさんが2017年に発表した「Ghen」が元歌です。シンガーやプロデューサー、シンガーらベトナムのクリエーターが力を合わせた作品だそうです。

2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を真っ先に封じ込めたベトナムは今回も素早い初動を見せ、今のところ感染をシャットアウトしています。パブリック・コミュニケーションのスキルもとても社会主義の国とは思えないほど進んでいます。

アメリカやイギリスはハッピーバースデーを2回歌う

先日のエントリーで、イギリスのボリス・ジョンソン首相が「科学的に立証された簡単なアドバイスです。ハッピーバースデーを2回歌いながら石鹸とお湯で手を洗ってください」と国民に呼びかけたことを紹介しましたが、各国とも工夫して手洗い励行を呼びかけています。

イギリスが強調するポイントは20秒間、石鹸と温水でしっかり手を洗うこと。欧州連合(EU)を離脱するイギリスではパトリオティズム(愛国主義)が強まっているため、保守党の閣僚や下院議員はハッピーバースデーか、国歌の「女王陛下万歳」を口ずさむように勧めています。

米疾病予防管理センター(CDC)はハッピーバースデーの替え歌まで作っています。「毎日しっかり手を洗いましょう。ウイルスを洗い流しましょう。好きなことをする前に石鹸と水でごしごし洗いましょう」という感じです。

エクアドルの病院が作った手洗い励行ソングの新型コロナウイルス・バージョンも結構いけてると思います。マンボー・ナンバー・ファイブに合わせて手を洗うのもなかなかだそうです。それに比べ日本の厚生労働省の動画は真面目過ぎるような気がします。

それより小林旭さんのヒット曲「自動車ショー」(作詞・星野哲郎、作曲・叶弦大)の「ここらで止めても いいコロナ」がピッタリくるんじゃないかと考えたりしますが、不謹慎でしょうか。

フェイスマスク広告を禁止したイギリス

イギリス広告基準局(ASA)は「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにフェイスマスクを使いましょう」とうたった2社の広告を禁止しました。イギリス政府は科学的に立証された自衛手段として石鹸と温水による20秒間の手洗いを励行しています。

問題の広告は「パニック感が高まっていると言っても控え目です。自分を守る最良の方法の1つは、ウイルス、バクテリア、他の大気汚染物質からあなたを守れる高品質のフェイスマスクを手に入れることです」と消費者の不安心理を煽っていました。

ASAはフェイスマスク広告禁止の理由について筆者に次のように説明しました。

「私たちの規則は広告が真実で責任を持つことを要求しています。広告主は自分の主張を裏付けるきっちりとした文書の証拠を備えている必要があります。特に人々の健康に害や損害を与える実際のリスクがある場合はなおさら医学的な証拠を求められます」

「フェイスマスク広告は、誤解を招く、無責任で、正当な理由なく恐れを引き起こす恐れが強いため、積極的に調査し、禁止しました」

「イングランド公衆衛生局に助言を求めた後、ASAは結論に至りました。これを受けて2社は新型コロナウイルスの感染を防ぐ手段としてフェイスマスクの使用を推奨しないことを伝えてきました」

「臨床現場以外でマスク使用の効果を示す証拠はほとんどないこと、マスクの長期使用は感染症の蔓延を防ぐために推奨される適切で普遍的な衛生行動へのコンプライアンスを低下させる恐れが高いことも理解しました」

プラットフォーム企業も問題広告を削除

ASAはプラットフォーム企業の対応についてこう言います。「FacebookやGoogleなどさまざまなオンラインプラットフォームと緊密に連携して同様の広告を削除する取り組みを支援しています。問題広告を削除するために、プラットフォーム企業は即座に行動しています」

「またプラットフォーム企業はネットワークを積極的に監視して、この種の広告を見つけて削除しています。現在、新型コロナウイルスに関連する他の広告の調査は行っていませんが、誤解を招くと思われる広告を見つけた場合は苦情を申し立てることをお勧めします」

世界保健機関(WHO)は「発熱や咳、呼吸困難などの症状がない健康な人はマスクを着ける必要がない」「マスクが病気でない人を新型コロナウイルスから守るという証拠はない」と説明しています。マスク着用に関するWHOのアドバイスは次の通りです。

(1)もしあなたが健康なら新型コロナウイルスへの感染が疑われる人の世話をする場合にのみマスクを着ける必要がある

(2)咳やくしゃみをしている場合はマスクを着用

(3)マスクはアルコール手指消毒剤、石鹸と水を使った頻繁な手洗いと組み合わせて使う場合にのみ効果がある

(4)マスクを着用する時は正しい使い方と捨て方を知っておくべきだ

私たち市民はできることに集中しよう

賢明な人は問題にシンプルに対応します。大切な2割に集中することが8割の問題を解決するパレートの法則を知っているからです。私たちが心がけなければならないことは2つあります。

・好きな歌を口ずさみながら、頻繁に手を洗うことです。

・新型コロナウイルスに感染したと思った人は病院や診療所、薬局には行かずに相談窓口に連絡して指示に従うことです。

あとはお医者さんを信じて任せましょう。それ以外の8割のことを部外者が言い出すと問題が複雑化してしまいます。今PCR検査を言い募っているのは木を見て森を見ない人たちです。

中国湖北省武漢市やイタリアのように医療機関を新型コロナウイルス感染のホットスポットにしてしまうと日本はこの戦いに敗れてしまうでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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