習主席に迫る大きな政治リスク-全人代控え中国で失業の波
Bloomberg News-
GDP・所得倍増目標、達成不可能だと「誰でも分かる」との指摘も
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失業者数5000万人超、3月実質失業率12%の可能性-BNP
中国共産党が約40年前に経済を開放して以来、珠江デルタ工業地帯は中国で最も重要な成長エンジンの一つとなってきた。しかし今、広東省の労働集約型セクターの一部では、中国の未来というより過去を思わせるほど状況が悪化している。
同省の東莞市の暗い路地裏では、小さな繊維メーカーが生き残りをかけて苦闘している。多くの出稼ぎ労働者はすでに貧しい内陸部に戻った。同市の人口はニューヨーク市とほぼ同じだ。
国民の幅広い経済的苦境は、習近平国家主席にとって大きな政治問題になるリスクがある。共産党総書記でもある習氏は共産党統治の正統性を示す重要な要素として所得水準に照準を定めているだけになおさらだ。
同氏は昨年12月31日、2020年は中国が「小康社会(適度にゆとりある社会)」の構築を仕上げる「節目」の年になるだろうと演説。2020年、つまり今年中に国民1人当たり所得と国内総生産(GDP)を10年前の水準から倍増させ、貧困を撲滅させるという目標を「共産党が人民と歴史に誓った固い約束」だと習氏は語っていた。
長期に及ぶ経済成長鈍化と米中貿易戦争によってすでに困難に直面していたこれらの目標の達成は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で手の届かないところに消え去った。厳しい現実は22日に開幕する全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で明らかになるとみられる。世界第2位の経済大国である中国が毛沢東時代以来で最悪の景気悪化に備える中、習政権は経済成長率を数値目標で掲げることを数十年ぶりに見送る可能性がある。
南京大学の顧粛教授(法哲学)は「こうした目標を自ら見据え提唱してきた習氏にとっては、大きなプレッシャーだ」と指摘。そうした目標が実現不可能であることは「経済の基本的知識を持っていれば誰でも分かる」と語った。
BNPパリバによると、都市部に移動できない出稼ぎ労働者を考慮すると、失業者数は5000万人を超えている可能性がある。3月の実質失業率は12%に達したもようだという。
中国がこれほどの規模の失業に見舞われるのは、国有企業による解雇が抗議行動と凶悪犯罪の急増につながった1990年以来だ。当時、中国はグローバル化の波に乗り、好景気の米国に中国製品を供給することで急速に経済を回復できた。
現在の状況は大きく異なる。中国政府が債務削減を探る中、トランプ米大統領が中国の輸出企業を狙って仕掛けた前代未聞の貿易戦争で成長はすでに減速している。
東莞市ではほぼ一夜にして職を失った出稼ぎ労働者もいて、こうした厳しい現状を実感している。ある家具メーカーでは、従業員全体の約75%に相当する300人前後が仕事を失ったという。
繊維機械に使われる部品を製造する会社を経営する60代の男性によると、事業は新型コロナで打撃を被る前から貿易戦争の悪影響を受けていた。破産の瀬戸際に追い込まれているという男性は「生きていくのに十分な稼ぎがない。いつまで続けられるか分からない」と真情を吐露した。
原題:Millions of Newly Jobless in China Pose a Looming Threat to Xi(抜粋)