経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

この国に必要な穏健な財政

2019年06月09日 | 経済
 骨太方針やら、参院選公約やらが固まり、10月の消費増税も本決まりの様相となってきた。アベノミクスの6年間の実質成長率の年平均は1.2%しかないのに、財政収支は1.2%も改善している。こんなに緊縮していなければ、成長率は2倍になって、とっくにデフレを脱却していたはずだ。それなのに、更なる緊縮を敢行するつもりらしい。この国に必要なのは、穏健な財政への転換である。

………
 世間の人々は、過激な緊縮が行われているとは、まったく思っていない。長年にわたって積み重なった公債残高の巨大さばかりが強調され、年々の収支の変化は、伏せられているからである。各界のリーダーや有識者であっても、マスコミを通じた官製の発表物に馴らされているため、本当の実態を分からないまま、財政の「危機的状況」に関する見解を再生産させられている。統計データを自らチェックする者しか、実情を知らないのである。

 財政収支を実態を、日銀・資金循環統計の一般政府の資金過不足でチェックすると、2012年に名目GDP比で-9%もの赤字だったものが、2018年には-2%にまで改善していることが分かる。実に、年平均で1.2%もの緊縮がなされていたわけだ。年額にして約6兆円、消費税の2%分に匹敵する緊縮を年々繰り返して内需を抑制していたら、デフレから脱却できないのも当然で、成長の中身は、輸出とそれの設備投資ばかりである。

 消費増税のあった2014年は別にして、これだけの緊縮は意外かもしれないが、メカニズムは単純だ。年々の歳出増を高齢化に伴う自然増の0.5兆円に抑える方針の下では、税収規模は約60兆円なので、名目成長率が0.8%を超えると、税収増が歳出増を上回り、自動的に緊縮が働くのである。同様に、地方財政も歳出増が抑えられ、厚生年金も保険料が増えても給付が連動するわけではない。こうしたデフレ構造が内蔵されている。

 したがって、デフレ脱却へ向けた処方箋は、穏健なもので済む。歳出増を1.2兆円まで拡大し、名目成長率2%までは、緊縮がかかりにくくにする。それでも、税収の弾力性は1より大きいので、それだけ収支が改善するし、地方や年金は、今までどおりである。結局、緊縮のペースを従来よりも落とすよう、構造を改革するということだ。歳出枠が0.7兆円拡大されれば、非正規女性への育児休業給付の実現など、少子化対策が次々に新設できる。

 従来は、税収が上ブレすると、補正予算で、そのとき限りのバラマキをしてきた。こうした使い方だから、いつまで経っても、少子化を克服できず、この国は、持続可能性を失ったままなのである。少子化が緩和されると、年金は長期的収支が大幅に改善し、年金を支える財政も楽になる。全体を見ず、目の前の歳出枠をケチって、デフレと人口崩壊をもたらしている過激な緊縮の構造を、今こそ転換しなければならない。

(図)


………
 アベノミクスでは、「リフレ」と称し、異様な金融緩和と過激な緊縮財政が貫かれて来た。その反動から、「財政赤字は、インフレ以外は問題にならない」とするMMTが注目されるようになっている。気をつけたいのは、金融緩和と違って、財政出動は効くため、量と質について、真面目に考える必要があることだ。「リフレ」の半面は、日銀の事務方が作ってくれたが、日本の財政当局は、需要管理の発想が欠け、歳出カット以外に能がない。

 彼らは「次世代に負担を先送りすべきでない」と盛んに唱えるが、先送りが可能なら、次世代も次々世代に先送りすれば良いだけだろう。こんな内在する論理の破綻すら放置されるのだから、負担論の理解レベルは、推して知るべしだ。先送りで困るのは、次世代が細る少子化の場合だから、先送りを可能とする以上、どんなに財政赤字を膨らませても、少子化を克服すべきという帰結になると思うが、いかがだろう。

 失われた20年は、闇雲な緊縮財政のなせる業だが、他方で、過剰な拡張財政も、経済に混乱をもたらす。経済には、需要の安定が何より重要である。なぜなら、成長の原動力である設備投資は、需要リスクに敏感で、需要に従ってなされ、金利で直接にコントロールすることが極めて難しいからである。MMTの論者も、なぜ、需要が大切なのかの理由まで分かっているわけではない。

 こうしたこともあり、歳出枠の拡大という穏健な路線を提案する次第だ。もちろん、より機動的な財政運営も在り得るし、やり切れるほどの技量があれば別だが、今の日本の議論のレベルでは危い。少なくとも、消費の前年比が2%で物価上昇率2%なら、消費増税1%といったルールを確立したり、利子課税を25%に引き上げて、金利が上昇しても税収増で利払いを賄える仕組みを整えたりといった「安全装置」を用意してからにすべきであろう。

………
 金曜に公表された景気動向指数は、先行指数が更に低下し、アベノミクスの6年間で最低となった。民主党政権末期並みへの下り坂で参院選を迎えるのは、高転びする危険がある。もはや、消費増税の先送りは、時間的に難しいので、あるとすれば、追加の経済対策になるが、既に消費税対策で一杯の公共事業では消化不良を起こしかねない。むろん、お勧めは、先述の非正規女性への育児休業給付の実現だ。

 赤字国債は、国内で消化する限りにおいて、持つ者と持たざる者の間で負担の格差が生じるものの、全体としては差し引きゼロで、負担が増すわけではない。本当に負担が増すのは、財政赤字が過剰な消費を招き、投資を阻害する場合に限られる。投資の少なさが生産力増強を鈍らせ、次世代の消費可能量を減らしてしまうからだ。これは、緊縮財政で需要リスクを生じさせ、投資を阻害しても同じことになる。

 したがって、財政は、緊縮にせよ、拡張にせよ、投資を促進するか、阻害するかで判断することになる。赤字の大きさは本質ではない。主流派は、緊縮すれば金利が下がって、自動的に投資が促進されると、ナイーブに考えるから、袋小路に陥ってしまう。してみると、少子化を克服する以上に、投資を促進するものがあろうか。なぜなら、国の持続性を確保して、投資の収益期間を無限に伸ばすからである。

 逆に、健全財政を貫いても、少子化で国が衰亡するようでは、無意味である。日本の少子化対策は、あれこれやられているようで、最初に直面する乳幼児期の支援が最重要であるのに、教育無償化の対象外にされたとおり、財源論に煩わされて手薄になっている。非正規女性への育児休業給付の実現は、経済的格差の是正にもなり、社会的に不効率な乳幼児期の保育需要を冷やすにも有効だ。財政は、質も考え、次世代のためにこそ使いたい。


(今日までの日経)
 法人税どこに消えた デジタル経済、捕捉しきれず。衆参同日選、見送り強まる 消費増税予定通り 国会延長せず。18年の出生数91.8万人、最低を更新 出生率は1.42。バイト時給に天井感 業績悪化・人材確保、綱引き。年金減額見直し 難題 財源の手当てつかず。


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-06-10 01:49:10
シンゾーは第二のハシリューになりそうだな。今まで碌な対抗馬がいないから仕方なく支持してきたが超強力アンチになるわ。
Unknown (bnm)
2019-06-15 01:13:35
> MMTの論者も、なぜ、需要が大切なのかの理由まで分かっているわけではない。

MMTはそんなこと当然わかった上で総需要管理政策に批判的なんです。相変わらず勉強せずにいい加減なこと言いますよね。
これだけ指摘したのに改まらないということは、MMTどうこうじゃなく、元からそういう人なんでしょうね。もう何も言いません。願わくは、読者の方々が筆者さんに騙されることがないよう。

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