※ 【12月17日(木)のEditor’s Lounge】アフタートーク!:編集長とCDによるWIREDカンファレンス2020延長戦 〜ゲストは伊藤直樹(『WIRED』日本版クリエイティヴ・ディレクター/PARTY)〜

職場というスペースで何をする?

人々が自由に行き来している従来型のオフィスの概念は崩壊に向かっている。でもアクリル板で部屋をいくつにも仕切ることが未来のオフィスの姿ではない。鍵となるのは、人々の「動線」と「物理的距離」、それから「職場というスペースで何をするか」という根本的な問いだ。

ポストコロナのオフィスは、オープンで動性の高いオフィスとは真逆の仕様になる。隔離が重視され(それが快適なものかそうでないかはケースバイケースだが)、これまで主流だったスペースを割り当てるといったトレンドとはまったく逆をゆくものになるだろう。

「オフィス業界全体が、いままでとは正反対の方向に向かっています。これまでは密でオープンな設計一辺倒でしたから」とロイヤル・カレッジ・オブ・アートのヘレン・ハムリン・デザイン・センター教授であり、WORKTECH Academyの創業者でもあるジェレミー・マイヤーソンは言う。

「いままでのオフィスが目指してきたのは『社会的な階段』であり、大切なのは『衝突係数』を高めることでした。人と人とがなるべく偶然顔を合わせるように設計されてきたんです。ところが、いまではそれはご法度になりました。ではオフィスは一体何のために存在するのでしょうか?」

ソーシャルディスタンスを求められた企業の多くが最初に取った対策は、アクリル製の仕切りと手指の除菌剤の発注だ。アクリル板はあっという間に品不足に陥った。しかし、これはあまり持続可能な方法ではないし、デザインを意識した取り組み方でもないのは明らかだ。「部屋の中に部屋がつくられ、空間が分断されることになります」とオフィスパーティションを専門に扱う香港の会社JEBの社長であるロバート・ウォールは言う。

Oxford’s Beercroft Building

オックスフォード大学のビークロフト・ビルディング。社会的交流の促進を目指して設計されたが、いまではこの設計方針は推奨されない。PHOTOGRAPH BY JACK HOBHOUSE

必要なのは、手を触れないためのテクノロジー

人の数と動きを管理し整理する新しいアイデアがすぐに出てくるでしょう、と建築会社ゲンスラー(Gensler)のロンドン支社でオフィスデザインを担当するジェーン・クレイは言う。「わたしたちが考えているのは、入り口ひとつ、出口ひとつの一方通行システムや、デスクの分離、コーヒーコーナーの床にソーシャルディスタンスを促すマークをつける、などです」

マイヤーソンによると、以前は人の出入りを計測し、効率的な冷暖房を行なうために使われていたセンサーが、新たな目的のために使えそうだという。「センサーや位置標識といった情報システムが、これまでのように効率化のためではなく、安全性を高めるために使われるようになると思います」と彼は言う。

またロボットクリーナーやロボット警備員といった自動化システムにも、多大な投資が行なわれることになるとマイヤーソンは考えている。いや、それよりも重要なのは、人が手を触れる箇所を極力減らすテクノロジーかもしれない。自動ドアや自動水洗トイレが増えていくだろう。

これまでは病院で使われてきた抗菌素材や、抗菌処理を施した物品もオフィスにどんどん入り込んでくるようになるだろう。ダンヒルやソニー・ミュージック、マッキンゼー・アンド・カンパニーといった企業のロンドン支社の設計を手がけた建築設計会社モーリースミス(MoreySmith)の副所長ダニー・サラモンによると、銅や銅合金、化学処理を施していない木材といったこれまでにない材料の人気が高まるのではないかという。