<新型コロナ>救急隊の悲痛な要請 「17件目です」にも満床で応えられない… 神奈川の医師が語る緊急事態の現実

2021年1月13日 10時33分
 新型コロナウイルス患者用の病床が逼迫し、自宅療養中に病状が悪化して救急車を呼んでも入院できない状況になっている-。7日に緊急事態宣言が再発令される中、神奈川県立循環器呼吸器病センター(横浜市金沢区)でコロナ患者の治療にあたる丹羽崇医師は現場の状況をこう訴え、「今は人に会わないで」と呼びかけている。詳しいやりとりは以下の通り。(石原真樹)

新型コロナウイルス患者を受け入れる神奈川県立循環器呼吸器病センターの病棟(2020年4月、県提供)

◆患者が苦しくて119番

―循環器呼吸器病センターの状況は。
 新型コロナウイルス感染症の中等症患者を受け入れていて病床が33床ありますが、昨年12月に入ったあたりからほぼ満床に近い状況が続いています。それまで保健所や県庁を経由して病院に患者が割り振られていたのが、正月明けごろからダイレクトに救急隊から病院に連絡がくるようになり、緊急事態宣言前の1月6、7日あたりから急増しました。
 県も一生懸命、自宅療養している人をケアするチームを増強したが、患者が増えすぎて、保健所も県もすべての患者さんを管理しきれなくなった。それまで、いざとなったらコロナ119番に連絡してくださいと県は言っていたのが、そこがつながらなくなり、患者さんが苦しいからと通常の119番を呼ぶようになったと思います。

◆救急車、家の前で1時間半動けず

―満床の状況で病院としてどう対応するのか。
 朝から晩までひっきりなし、救急隊から1日7、8件連絡がきますが、そのほとんどを断らなければいけなくなっています。救急隊から「貴院で17件目です」「ずっと断られて」と悲痛な声で入電しても、満床では受けたくても物理的に受けられない。
 救急隊は運ぶ先がなくなってしまっているので、呼ばれた家の前に救急車が1時間半横付けされた状態で電話をかけ続ける状態が起きている。そうすると、入院基準を満たす可能性が低い患者さんは「置いて帰る」ことになり、実際にそれが起きている。不安だからと救急車を呼んでも、家で療養するしかない。入院できなくなっているのです。
 そういう患者さんは、症状としては軽症の方が多い。とはいえ、日本の救急医療は今まで安心安全をモットーに、裾野を広く誰でも受け入れるようにという精神で構築されてきました。
 しんどかったら救急車を呼べば、病院を必ず探してくれて、必ずそこに運んでくれる。それが、今までとは違う異常事態になっている。すぐそばの安心の医療インフラである救急車が今までどおりに使えなくなっているのです。日本の救急医療の世界ではあり得なかったことが起きているということをみなさんに知って欲しい。

◆ウイルスは時と場所と人を選ばない

オンライン取材に応える神奈川県立循環器呼吸器病センターの丹羽崇医師

―新型コロナウイルスに対する正しい知識とは。
 コロナに感染しない人間がいる、と思っていることがまず間違い。ウイルスは人を選びません。年齢も性別も人種も選びません。必ず誰でもかかります。ウイルスは時間も場所も選びません。午後8時までに家に帰ったからといってかからないわけではない。
 飲食店に行かないからといってかからないわけではない。確実に言えることは、ウイルスは時と場所と人を選ばず、絶対に「人から人」にうつります。人と会ったら一定の確率でうつるのです。マスクをする目的は、社会全体として人にうつしにくくしましょう、というだけ。でも、うつります。
 医療従事者は、清潔領域と不潔領域を分けて診療します。病棟も清潔ゾーンと汚染ゾーンに分け、汚染ゾーンに入ったときは絶対に自分の体にウイルスが入らないように手袋の付け方などいろんなことを気にしてやる。でも日常生活の中でゾーンを分けることは事実上不可能です。
 いつどこでうつるかわからないけれど、絶対に「人から」ですから、とにかく第三者と会うのを避けるということがとても大事。守るべき家族、大切なパートナーにうつさないようにするために。

◆今がぎりぎり

 このウイルスはすごく狡猾で、症状が出ない若い人がウイルスを運び、ある一定の確率で家族に感染し、その中で年齢が高い人ほど高い確率でロシアンルーレット的に重症化して、その中で命を確実に奪っていく。
 命を奪う確率は低くて、命を奪うか奪わないかのぎりぎりのところで集中治療の病床を埋める。だから人類、日本社会が構築してきた人間関係や、社会の医療インフラをすごく巧妙に狡猾にじわじわと奪っていくウイルスなのです。それと共存せざるをえない。
 ただ、対策をちゃんとすれば減る。第三者と会えば必ず一定の確率でうつると自覚して、行動を自粛すれば、社会全体の感染者数は減り、もとの救急医療に戻ります。今、医療のキャパシティを超える寸前のところで、一番に保健所と救急隊が悲鳴を上げています。今がぎりぎり。ここでみんなぐっとこらえないと、自分たちに跳ね返ってくると意識してほしい。

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