島田順子さんがフランス郊外に建つこの家と出会ったのは1987年のこと。小さな住まいを探すつもりで不動産屋とともに家々を見てまわり、最後の最後にやっと巡り合った。過去には作曲家のジュール・マスネが所有していた邸宅は18世紀に建てられたもので、裏庭や果樹園、地下室には教会を有し、木々に囲まれ花が咲き乱れる。島田さんもファンを公言する作家のオスカー・ワイルドもかつては訪れていたそうだ。
「そんなこととは露知らず、広さも想定外だったけれどひと目見て気に入ってしまったの。雰囲気が良くてエネルギーを感じたんです」
そうして手に入れた家を、30年以上かけて少しずつ改装している。全体的に朽ちていた壁紙を剥がして白いペンキを塗り、歴史的文化遺産である教会のために建造時に使われていた石を探し出し、当時の組み方に倣って時間をかけて整えた。屋根裏部屋には階段を設置し、ゲストルームへと生まれ変わらせた。デザインやディテールはすべて、彼女自身が考えたものだ。
「空気が良くて、みんなここに来ると『ほっとする』と言ってくれます。寝室にはお風呂と庭を眺められる大きな窓がついていて、好きなときに好きなように過ごせるのがこの家の良さ。これまでたくさんの幸福をくれました」
そんな島田さんにとってのドリームハウスとは?
「開放されて、自由でいられる家。音楽を大きな音でかけても、周りに気を遣わなくていい。誰にも譲らずに幸せが叶うこと、それが私のドリームハウスです。一つずつ夢を叶えているけれど、まだ完成しません。でも時間をかけると次々とアイデアが生まれてくるものですね」
最近も、屋根が崩れかけていた納屋を改装したばかり。今もまだ夢の途中だ。
Photos: Adrien Dirand Text: Rio Hirai Coordination: Noriko Ishizaka Editors: Shizue Hamano, Masayo Ugawa