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パリの郊外に見つけた邸宅が、ドリームハウスに育つまで。【ようこそ、私たちの夢の家へ|島田順子】

美しい芝をたたえた庭が自慢のデザイナー島田順子のパリ郊外の邸宅。一目見て気に入ったという18世紀に建てられた家を、30年以上かけて丁寧に改装を重ねている。「一つずつ夢を叶えているけれど、まだ完成していない」と本人が語る現在進行形のドリームハウスを覗いてみよう。

寝室のバルコニーの窓は「庭の奥まで見渡せるように」という島田さんの希望で、今の大きなガラスの扉に取り替えた。「日中はこの部屋でデッサンをしたりして過ごしています。もともとは前の住人がグランドピアノを置いていた、家の中で一番いい場所なんですよ」。カッコウやフクロウが鳴き、リスが駆けまわる庭には、最近オリーブの木を3本植えた。

島田順子さんがフランス郊外に建つこの家と出会ったのは1987年のこと。小さな住まいを探すつもりで不動産屋とともに家々を見てまわり、最後の最後にやっと巡り合った。過去には作曲家のジュール・マスネが所有していた邸宅は18世紀に建てられたもので、裏庭や果樹園、地下室には教会を有し、木々に囲まれ花が咲き乱れる。島田さんもファンを公言する作家のオスカー・ワイルドもかつては訪れていたそうだ。

「そんなこととは露知らず、広さも想定外だったけれどひと目見て気に入ってしまったの。雰囲気が良くてエネルギーを感じたんです」

敷地の一角にある、最近改装したという納屋。古い木材を使って職人に修繕してもらうことで、もともとの建物と改築部分をなじませた。白い椅子に腰掛けて庭を眺めるのが、島田さんが気に入っているこの場所での過ごし方だ。

そうして手に入れた家を、30年以上かけて少しずつ改装している。全体的に朽ちていた壁紙を剥がして白いペンキを塗り、歴史的文化遺産である教会のために建造時に使われていた石を探し出し、当時の組み方に倣って時間をかけて整えた。屋根裏部屋には階段を設置し、ゲストルームへと生まれ変わらせた。デザインやディテールはすべて、彼女自身が考えたものだ。

屋根裏につくったこのスペースは、来客があったときのゲストルームとして使用している。

「空気が良くて、みんなここに来ると『ほっとする』と言ってくれます。寝室にはお風呂と庭を眺められる大きな窓がついていて、好きなときに好きなように過ごせるのがこの家の良さ。これまでたくさんの幸福をくれました」

ダイニングルームで過ごす島田さん。自ら選び、ともに時を過ごしてきたインテリアに囲まれてリラックスした様子だ。

そんな島田さんにとってのドリームハウスとは?

「開放されて、自由でいられる家。音楽を大きな音でかけても、周りに気を遣わなくていい。誰にも譲らずに幸せが叶うこと、それが私のドリームハウスです。一つずつ夢を叶えているけれど、まだ完成しません。でも時間をかけると次々とアイデアが生まれてくるものですね」

最近も、屋根が崩れかけていた納屋を改装したばかり。今もまだ夢の途中だ。

Photos: Adrien Dirand Text: Rio Hirai Coordination: Noriko Ishizaka Editors: Shizue Hamano, Masayo Ugawa