未認可のワクチン接種、コネが物言う中国では特権-闇市場の温床にも
Bloomberg News-
「中国の人たちは接種を受けたことを誇りにしている」と語る人も
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CNBGはマレーシアやインドネシア、UAEなどにも供給する契約
北京の実業家チェンさんは渡米前に新型コロナウイルスワクチンの接種を受けたいと思い、中国南東部のコールドチェーン(低温物流)会社で働いている友人に当たってみた。その会社に雇われたことにして、試験的なワクチン接種の1つに参加できるようにした。
チェンさんは広東省に行き91ドル(約9500円)ほど払って2回の接種を受けるつもりだ。世界的な新型コロナワクチン開発競争でリードする中国医薬集団(シノファーム)の子会社製ワクチンが投与されるはずだと考えている。
チェンさんによれば、支払いはアント・グループの決済サービス「アリペイ(支付宝)」を使う。「明らかに闇市場だから、詳しいことは教えてくれない」とも話す。詳細をばらせば報復を受けるとして、名字だけ明かすことを条件に取材に応じてくれた。
英アストラゼネカや米ファイザーなど新型コロナワクチン開発の最終段階に進んでいる欧米勢と異なり、中国のワクチンメーカーは臨床試験第3相での接種の有効性についてデータを公表していない。それにもかかわらず、感染拡大がほぼ封じ込められている中国本土から国外に出る人を中心にワクチン候補を求める人は多い。
ブルームバーグは10人ほどに取材。自身の経験を自由に話せるように匿名もしくは名字だけの引用を条件に、ワクチン接種を優先的に受けるには仕事上の「関係」が物を言い、政府関係者が有利な実態を教えてくれた。
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賄賂
反汚職団体トランスペアレンシー・インターナショナルのヘルスイニシアチブ担当ディレクター、レイチェル・クーパー氏(ロンドン在勤)は「コネのある人々にワクチンが回される機会は多くある」と言う。同団体の調査によれば、アジア全体では5人に1人が診察や治療を受けるためにコネに頼っており、 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以前から「医療を受けるために人々は個人的なつながりを利用したり、賄賂を支払ったりしなければならなかった」と指摘する。
中国国営の新華社通信は25日、シノファーム傘下の中国生物技術(CNBG)が中国国家薬品監督管理局に新型コロナウイルス感染症(COVID19)ワクチンの使用を申請したと報道。中国で当局が最終的な認可をまだ出していないワクチンが緊急使用プログラムの下で、何十万人にも投与されているという事実は、ワクチンの安全性を巡る懸念を招いている。
中国当局に新型コロナワクチン使用を申請-シノファーム傘下CNBG
ジェーソンさん一家の友人は、河北省政府当局者との仕事上のつながりを生かしてワクチン接種を受けた。家族に接種を受けさせるよう促されているジェーソンさんだが、ワクチンの安全性と効果を信用することができず躊躇(ちゅうちょ)している。「中国の人たちは接種を受けたことを誇りにしている。特権の享受だとし、それを吹聴、私や私の家族に接種を勧める。中国では一定のコネがあれば接種を受けることは難しくない」と語る。
政府省庁の職員や国有企業の社員にとって接種のハードルは低い。中国外務省で働く1人は2カ月前にCNBG製ワクチンの接種を2回受けたと言う。国外出張はないものの、外国人との接触があるためだ。同省の多くの官僚が接種を受けているとも教えてくれた。
国有の中国銀行では多くの同僚が上海での11月の博覧会に行く前に接種を受けたと行員の1人が明かした。国有のテクノロジー企業は数十人が9月に主催した大規模フォーラム前に接種を受けたと説明。両親が政府系の仕事をしているため、ワクチン接種が受けられたと話す人もいた。
ブルームバーグのジャーナリストもこの記事の取材途中でCNBG製ワクチンの接種を持ちかけられた。ブルームバーグがまとめた公にされた資料や報道によれば、CNBGはマレーシアやインドネシア、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)など幾つかの国との供給契約も結んでいる。
原題:Covid Vaccine Rush in China Raises Fears of Booming Black Market(抜粋)