正論8月号

日本共産党の同性愛差別史 元板橋区議(元日本共産党区議団幹事長) 松崎いたる

東京・千駄ヶ谷の日本共産党本部
東京・千駄ヶ谷の日本共産党本部

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性的少数者LGBTへの理解促進を目指す法案に関する自民党内の会合で、同法案に反対する議員から「道徳的に認められない」「種の保存に背く」などの発言があったと報道されたことについて、日本共産党の小池晃書記局長が噛みついている。

「無知蒙昧な許されない暴言だ」「自民党も含め超党派でまとまりかけていた法案に対して、性的少数者の人権・尊厳・存在そのものを否定するような発言をすることは断じて許されない」と、発言をした議員に対して謝罪と発言の撤回を要求している(二〇二一年五月二十四日の記者会見)。

どんな法案であれ、各政党が党内でその内容を吟味し、議論を積み重ねていくことは当然であり、その議論の途上での意見について、他党の幹部が謝罪や撤回を要求するのは不当な干渉だ。

加えて元日本共産党員として私が悲しく思うのは、LGBTの問題で自民党を非難する資格は共産党にはないということだ。つい最近までゲイ、レズビアンという同性愛者に対して「不道徳」「退廃」のレッテルを貼ってきたのは他ならぬ共産党だからである。

同党は二〇二〇年一月の第二十八回党大会で綱領を一部改定し「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」ことを掲げたが、大会の結語で志位和夫委員長は次のように報告している。

「この点にかかわって、全党討論のなかで出された一つの意見にこたえておきたいと思います。それは、一九七〇年代、『赤旗』に掲載された論文などで、同性愛を性的退廃の一形態だと否定的にのべたことについて、きちんと間違いと認めてほしいというものです。これは当時の党の認識が反映したものにほかならないものだと思います。これらは間違いであったことを、この大会の意思として明確に表明しておきたい」

この結語は党内では「潔く誤りを認め謝罪した」などと絶賛されたが、しかし裏返せば一九七〇年代の「同性愛は退廃」という党の公式見解を二〇二〇年一月まで持ち続けてきたということにほかならない。しかも、この結語は「間違いであったこと」を認めただけで、実際には謝罪していない。

そもそも一九七〇年代の「赤旗」論文とは何か。志位氏は明らかにしていない。これでは「退廃」としていた当時の認識や差別を受けてきた当事者たちの被害の検証は不可能だ。「退廃」との認識が「人権・尊厳」に百八十度転回するまでの過程を日本共産党は説明する必要がある。そうでなければ、いくら「差別をなくす」といっても信用には値しない。ただのウケねらいの空文句だ。私は以下の小論で、説明責任を放棄した日本共産党にかわり、同党と同性愛の問題について歴史的に検証していきたい。

むき出しの「同性愛憎悪」

七〇年代の「赤旗」論文について日本民主主義文学会(共産党関係の文学団体)事務局長で文芸評論家の乙部宗徳氏は志位結語の翌日、自身のフェイスブックで「これは『赤旗』一九七六年一月八~九日に掲載された『退廃との思想闘争は、民主的青年運動の重要課題』という無署名論文(『青年学生運動と日本共産党』2に所収)のことだと思う」と指摘した。

共産党内では党機関紙「赤旗」の無署名論文は党の常任幹部会が審査して掲載されるもので、個人署名の論文より権威が高く、全党の総意を示す論文とみなされている。指摘された無署名論文には「一部の無責任な評論家のなかには、性の『快楽』化を歴史の流れであるかのようにみなし、『婚前交渉も、姦通も、乱交も、夫婦交換も、同性愛も、あらゆる変態性欲の容認も、そうした流れのなかのファッションである』などとのべる人もいる」との記述がある。

乙部氏は「この論文で『同性愛』が出てくるのは、この引用文だけである」というが党の同性愛者への非難は本当にそれだけなのか。究明すべき点はまだ多くある。

例えば一九七六年八月に起きた〝ある事件〟への対応は、異常なほどの「同性愛憎悪」に満ちている。

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「正論」8月号 主な内容

【特集 「平時」からの脱却】

菅首相に求む安保の有言実行 国家基本問題研究所理事長・ジャーナリスト 櫻井よしこ

対中非難決議阻む国会の闇を告発する 衆議院議員 長尾敬

なぜアビガンは承認されないのか 本誌編集部

厚労省審議会非公開議事録全文掲載

武漢ウイルスとの戦い 日本は敗北したのか 評論家 八幡和郎/医師・元厚生労働省技官 木村盛世

ワクチンめぐる中台の攻防〈チャイナ監視台〉 産経新聞台北支局長 矢板明夫

感染症と自然災害に強い社会へ 緊急事態に対応する国会・国民的議論を ニューレジリエンスフォーラム発足

「翼賛体制」の必要性を問う 文芸評論家 富岡幸一郎

【特集 切り崩される保守】

LGBT法案で残念な稲田朋美氏 〈「政界なんだかなあ」特別版〉 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

左傾化する自民党を恥じる 自民党政調会長代理・参議院議員 西田昌司

日本共産党の同性愛差別史 元板橋区議(元日本共産党区議団幹事長) 松崎いたる

〝人権屋〞がのさばる入管行政 モラロジー道徳教育財団道徳科学研究センター教授・麗澤大学客員教授 西岡力

ウイグル人救えた入管法改正案 評論家 三浦小太郎

自公に代わる保守・中道政党を 国民民主党・新緑風会事務局長 岡崎敏弘

【特集 メディアぶった斬り】

産経新聞が「ダメな」根源的理由を論ず 元産経新聞社専務論説委員長 吉田信行

「脱炭素祭り」の先棒担ぐ日経新聞 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志

東京五輪開催で焦る朝日新聞 元東京大学教授 酒井信彦

【特集 自衛隊は便利屋にあらず】

菅首相、自衛官に名誉と誇りを 大田区議会議員・元空自予備自衛官 犬伏秀一

「よろず屋」扱いでいいのか ジャーナリスト 小笠原理恵

危機管理集団の自衛隊衛生を知る 医療法人社団恵養会武田クリニック・前自衛隊中央病院長 上部泰秀

【特集 コロナ禍と企業経営】

危機をプラスに転換する好機だ ホテルニューアワジ会長 木下紘一

乗り越えられたら必ず灯はある 株式会社紀伊國屋書店代表取締役会長兼社長 高井昌史

負けへんで 絶対ひっくり返したるっ お好み焼きチェーン「千房」株式会社代表取締役社長 中井貫二

▶苦境の拉致被害者へ 日本の声絶やさない 特定失踪者問題調査会幹事長 村尾建兒

▶カンボジアで芽生えた日本への憂慮 地雷処理専門家 高山良二

▶渋沢栄一が生かした日本思想の伝統とは 評論家 中野剛志×早稲田大学非常勤講師 大場一央

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