先月、日本人類学会が京大に対して添付の要望書を提出しました。
2019年7月22日
京都大学総長 山極壽一 殿
日本人類学会会長 篠田謙一要望書
貴職におかれましては、ますますご清祥のことと存じます。
現在、京都大学を被告として沖縄県今帰仁村に所在する古墓、百按司墓より収録された古人骨の返還を求める民事訴訟が進行中であると報道されています。国内の遺跡、古墓等から収集され保管されている古人骨は、その地域の先人の姿、生活の様子を明らかにする学術的価値を含んでいることから、日本人類学会は、将来の人類学研究に影響する問題として、この訴訟に大きな関心を持ち、人類学という学問の継承と発展のために古人骨資料の管理はどうあるべきかを理事会で議論し、以下の原則をとりまとめましたので、ご連絡いたします。京都大学におかれましては、長年にわたり研究資料の管理を行っていただきました事を感謝すると共に、今後も以下の原則に沿った対応をとることを要望するものであります。
日本人類学会は、古人骨の管理と継承について以下の三つの原則が欠かせないと考えています。なお、ここで述べる古人骨は、政府による特別な施策の対象となっているアイヌの人たちの骨、ならびに民法において定義されている祭祀承継者が存在する人骨を含むものではありません。
・国内の遺跡、古墓等から収集され保管されている古人骨は、その地域の先人の姿、生活の様子を明らかにするための学術的価値を持つ国民共有の文化財として、将来にわたり保存継承され研究に供与されるべきである。
・古人骨資料を保管する機関は、必要に応じて、資料の由来地を代表する唯一の組織である地方公共団体との協議により、当該資料をより適切に管理する方法を検討すべきである。
・由来地に係わる地方公共団体との合意に基づき古人骨資料が当該地方公共団体へ移管される際は、研究資料としての保存継承と研究機会の継続的な提供を合意内容に含めるべきである。京都大学を対象としては、沖縄県以外の地域の古墓から収集された人骨に対しでも個人から返還要求があったと報道されております。上記の原則が守られない場合、将来、国内古人骨を扱った研究が著しく阻害され、国内の各地において過去にどのような身体特徴・生活様式の変遷があり、地域多様性が形成されてきたかを明らかにすることができなくなることを憂慮します。また、上記の原則から外れ、当該地域を代表しない特定の団体などに人骨が移管された場合、人骨の所有権をめぐる問題の複雑化や、さらには文化財全体の所有権に係わる問題へと波及する可能性がある点にも憂慮しています。古人骨資料の管理につきましては、今後、様々な運動が発生するかもしれませんが、100年、200年先、あるいはさらに遠い将来を見据えながら、国民共有の文化財という認識に基づいて対応をとっていただきたいと考えます。
よろしくおねがいします。
以上
それに対して、琉球民族遺骨返還研究会代表として抗議文を送付しました。
同要望書は、「学問の暴力」が露骨に出されたものだと考えます。
日本人類学会会長 篠田謙一殿
抗議文
2019 年 7 月 22 日に発出された「要望書」に関して、以下の通り強く抗議 し、謝罪と貴学会としての誠意ある対応を求める。一応の回答期限を1ヶ月 後の9月 20 日までとしたい。本抗議文に対する回答形式は、文書によるも のの他に、貴学会での本件に関する、訴訟団を含めた公開シンポ開催計画等 を求めたい。なお貴学会による「要望書」は社会的に大きな反響と問題を提 起していることに鑑み、本抗議文を公開とし、社会的な議論を促したい。
- 「要望書」の冒頭で、琉球民族遺骨返還請求訴訟に言及し、それが人骨研究 の阻害要因になるとして、貴学会が被告でないにも係わらず、琉球民族遺骨 返還に反対することは極めて異例であり、一方的に被告の立場に立った「政 治的」な関与であると言える。本訴訟の原告団長として強く抗議し、謝罪を 求める。被告・京都大学に有利に働くことが期待されるような「要望書」と なっており、中立性が求められる学術団体として相応しくない。被告の利害 関係者が所属する貴学会から発出されたことを考えると、本訴訟に対して一 定の影響を与えることを意図して「要望書」が発出されたと疑わざるを得な い。「要望書」発出に至る、貴学会内での協議内容の公開も合わせて求めたい。
- 「古人骨の管理と継承」に関する貴学会の3つの原則は、「アイヌの人たち の骨」と「民法において定義されている祭祀承継者が存在する人骨」は含ま ないとしている。つまり、琉球民族遺骨請求訴訟の原告は祭祀承継者ではな いと、貴学会が認識していると言えるが、その学術的な根拠を求める。百按司墓の遺骨は、第一尚氏の王族、貴族のものであり、その子孫が現在でも存 在し、祭祀を実施していることは各種の歴史資料や実際の祭祀行為によって 明らかである。また百按司墓は、「今帰仁上り」という巡礼地の一つとして 今尚、琉球民族が祭祀を行っている聖地であり、同遺骨は「骨神」として同 祭祀において不可欠のものとして考えられている。
- 百按司墓遺骨も「国民共有の文化財」と見なしているようであるが、同遺骨 を文化財として保管することができるとする法的根拠を示すべきである。文 化財保護法において遺骨を「文化財」として保管しうるとする規定はない。 なお、篠田謙一会長の著書『DNA で語る日本人起源論』(岩波書店、2015 年、238~239 頁)において、「人骨が文化財保護法において文化財として規 定されていない」旨の指摘がなされているが、百按司墓遺骨は信仰の対象で あり、文化財ではない。
- 2017 年に北海道アイヌ協会、日本人類学会、日本考古学協会によってまと められた『これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関する ラウンドテーブル』には、「アイヌの遺骨と副葬品を研究利用する際には、 上記の基本原則に則り、当然の前提として、人の死に関わる問題である点に 鑑みて、なによりもアイヌ自身の世界観、生死観、死生観を尊重することが 求められる。また、アイヌの遺骨と副葬品の遺霊と返還の実現が第一義であ り、研究に優先されることを十分に理解する必要がある」(同6頁)と記載 されている。アイヌ民族遺骨の遺霊と返還が研究よりも優先されるべきとの 判断を示しているが、「要望書」において琉球民族遺骨に対して、同様な対 応を示さない理由を明示すべきである。1996 年以降、琉球民族はアイヌ民 族と同じく先住民族として国連の各種委員会に参加し、脱植民地化、脱軍事 基地化、独自な教育の実施等を訴え、国連も日本政府に対する幾つかの勧告 の中において琉球民族を先住民族として認めてきた。琉球民族は、先住民族 が有する先住権によって祖先の遺骨を返還させる権利を持っている。貴学会 が琉球民族を先住民族と認めない学術的理由を明らかにしなければならない。
- 「資料の由来地を代表する唯一の組織である地方公共団体」と明記されてい る。百按司墓遺骨の由来地を代表する唯一の組織は地方公共団体であると考 えているようであるが、その根拠を示されたい。百按司墓の敷地、構築物は 今帰仁村役場が所有権を有しているが、墓地内の遺骨は同役場が所有してお らず、民法上の祭祀承継者が有している。
- 「当該地域を代表しない特定の団体などに人骨が移管された場合、人骨の所有権をめぐる問題の複雑化や、さらには文化財全体の所有権に係わる問題へ と波及する可能性」を指摘している。まず、京都大学が遺骨の所有権を有す るとする法的根拠を示し、今尚祭祀の対象となっている遺骨を「文化財」と 見なし、祭祀者から切り離すことが可能であるとする法的根拠も合わせて提 示すべきである。
- 京都大学に保管されている琉球民族遺骨が百按司墓から盗掘された具体的 な過程については、金関丈夫『琉球民俗誌』(法政大学出版部、1978 年)で 明らかにされ、松島泰勝『琉球 奪われた骨―遺骨に刻まれた植民地主義』 (岩波書店、2018 年)、松島泰勝・木村朗編『大学による盗掘―研究利用さ れ続ける琉球人・アイヌ遺骨』(耕文社、2019 年)等において、歴史的、社 会的、国際的な観点から遺骨盗骨に関する検討が行われた。貴学会は、金関 の遺骨盗掘過程に対する検証を行うべきであり、遺族や琉球民族による遺骨 返還要求があるにも係わらず、京都大学が保管し続けている、国内法、国際 法違反の状況に対して学術的に総括すべきである。そうしなければ、研究者 が自らの研究を継続するために、研究資料の独占的保管を求める「研究者の エゴイズム」としてしか「要望書」は社会的に受けとめられないだろう。
- 「国民共有の文化財」という言葉には、琉球の歴史を軽視した支配者側の「奢 り」が感じられ、大変、不愉快である。1879 年、琉球は日本政府によって 暴力的に併合され、日本人が沖縄県の県庁、教育界、警察等の幹部を占有し、 日本人「寄留商人」が経済的搾取を行い、軍事的には「捨て石作戦」の戦場 とする等、日本の植民地支配体制下におかれた。そのような日本人と琉球民 族との不平等な関係性を利用して、遺族の許可を得ずに金関丈夫・京都帝大 助教授は遺骨を盗掘したのである。琉球民族は日本国に併合された後、日本 国民になったが、1945 年後は、日本国から切り離されて米国政府が統治を 行った。「日本国民の安全保障」のために、現在も広大な米軍基地が沖縄県 に押し付けられ、民意を無視して辺野古新基地が建設されている。「国民共有」と言うときの「国民」の中に、琉球民族は他の都道府県民と対等な資格、 同様な歴史的背景で含まれているとは言えない。琉球民族の信教の自由を犠 牲にして、祖先の遺骨を「文化財」として研究者の研究のために提供するこ とが強いられている。基地問題と遺骨盗掘問題はともに、琉球民族に対する 構造的差別の問題である。琉球民族の信教の自由を否定し、尊厳を痛く傷つ け、琉球の歴史や文化を軽視する「要望書」の提出は、琉球民族全体に対す る侮蔑・差別行為であり、強く抗議し、謝罪を求める。以上
PDFはこちら:要望書への反論
亀谷正子さん(原告)の抗議文
2019年8月21日
日本人類学会会長 篠田謙一殿
亀谷 正子
抗 議 文
貴職が2019年7月22日付京都大学総長宛に提出した要望書について、遺骨祭祀承継者として抗議をする。私は琉球人遺骨返還を求めて京都大学を訴えている原告の一人で、祭祀承継者の第一尚氏の子孫である。
百按司墓は、琉球の正史「中山世譜」(1697年)、「球陽」(1971年再出版)に、北山時代及び第一尚氏の貴族及びその一族が葬られているとの記述がある。百按司墓の在る一帯には60以上の古墓が集中していて、そのうち5基が百按司墓として村指定有形文化財となっている。
私の先祖を含めた遺骨59体を1928~1929年に百按司墓から持ち出した金関氏は、時の官選知事・警察幹部の許可を得たと主張しているが、しかし、当時も第一尚氏の子孫の、「今帰仁上り」と称する7~9年毎の巡礼参拝が継続されていた。今でこそマイカー時代だが、那覇からでも90kmの距離にあり、南部地域からは優に100kmを超え、徒歩で片道2泊3日を要したことが想像に難くなく、そのために巡礼の間隔が長くなったことが推測され墓地周辺の草木の繁茂状態を招き、金関氏に「廃墓」の印象を与えたと考えられる。
琉球は1879(M12)年に日本に武力併合されたが、古琉球以前から祖先崇拝の因習があり、33回忌を終えた先祖の遺骨は「骨神(フニシン)」として祭り崇める。金関氏が琉球の歴史を知らず、琉球の信仰の知識も無く、祭祀継承者の同意を得ることも無く遺骨を持ち出したことは盗骨であり、犯罪行為である。盗骨により持ち出された遺骨は、祭祀継承者が存在するのに元の墓に戻さず、何故、学術資料になるのか?遺骨の所有権の無いものが主張できるのか?
琉球民族は国連から先住民族と認められている。そして、1990年以降、先住民族の遺骨や副葬品の返還を義務付ける法律が国際的に制定されている流れがあることを、日本人類学会が認識していない筈は無いと考えられる。京都大学提訴から7ケ月余の間に、琉球民族の信仰に関して知る努力を行うこともなく「要望書」提出に至ったならば、琉球・沖縄人を差別する「学者研究ファースト」の傲慢さが見えてくる。先進国サミットのメンバーとして民主主義を標榜している日本の、知識人としての良識は無いのか?
国連が琉球民族を先住民族であると認定していることを、貴職も日本政府同様に無視するのか、是非とも9月中に回答願いたい。
玉城毅さん(原告)の抗議文
抗 議 文 2019年8月21日
日本人類学会会長 篠田謙一殿
琉球人遺骨返還請求訴訟原告 玉城 毅
貴学会が京都大学総長宛に提出した要望書について内容に納得できないので抗議する。
貴学会が「古墓百按司墓、古人骨」と判断しているが、
全く祭祀継承者の居ない「古墓、古人骨」ではない。私達祖先の遺骨は継承者の全くいない古人骨とは言ってはいけないことだ。今でも私同様子孫の祭祀継承者の方々がいらっしゃるのだ。
「学術的価値を含んでいる」と言う表現があるが
自己納得し違法に盗んだ遺骨を返さないと言う事であり共犯になる。例えば盗品を質屋に入れると質屋は善意の第三者であるが無条件で持ち主に返さなければなら無い。この例えの様に国、京大は無条件で責任をもって元の場所に、元通りになる様に返還しなければなら無い。
「人類学という学問の継承と発展のために古人骨資料の管理はどうあるべきかを理事会で議論し」と言われるが
勝手に他人の遺骨をどうするか話し合っているが、盗人たけだけしく刑法でも、民法でも所有権が無いのに勝手に扱おうとしている。金関丈夫が盗骨した当時の社会は、琉球が廃国された時、明治政府の方針に従わないものを拷問にかけ、何町も離れた場所からも悲鳴が聞こえたと言う。その後本部村では徴兵検査の際「腕のまがった青年」の腕を検査医師が強引に伸ばし、それを見た兄が抗議をして集団の暴力沙汰になった。その後当事者は懲役に付された。
そのような暴力で押さえつけられた世上で「盗骨」が行われても抗議出来なかったのが実情だった。それで金関が盗骨する事が可能だったのであって古墓だったからではない。
「古人骨の定義」をしているようだが、
百按司墓の遺骨は第一尚氏所縁のものの遺骨で門中として祭祀する権利があり古人骨ではありません。
かってに祭祀継承者が居ないとする、無視する考えが差別そのものであることを日本人類学会の皆さんは分かっていない。
「百按司墓から盗掘した遺骨を国内の遺跡、古墓等から収集され保管されている古人骨」と決めつけているが、
古人骨で無いものをまるで何の疑う余地の無い様な言い方で古人骨扱いをし、由来地を代表する地方公共団体が唯一の組織とするのは都合のいい作り話としか言えない。三つの原則は百按司墓の遺骨には元より当てはまら無いものである。
「当該地域を代表しない特定の団体などに人骨が移管された場合、人骨の所有権をめぐる問題の複雑化や、さらには文化財全体の所有権に係わる問題へと波及する可能性がある点にも憂慮しています。」
1929年当時でも刑法、民法により違法である盗骨を当たり前のように研究し、返還運動を権利として見るのではなく害を及ぼすものとして見る手前勝手さに憤りを感じる。
返還後に起きる問題などを心配するが、遺骨について何の権利も無い国や京大があれこれと心配する問題では無く、やるべきではない余計なおせっかいである。
「国民共有の文化財という認識」
国民共有の文化財では無く先住民族として存在してきた、国連でも認められた琉球民族の遺骨であるし文化財の規定に反している事は勿論であるし「共有の文化財」では無い。
祭祀継承者を無視するやり方に、権利を奪われることへの怒りが抑えきれなく湧き出てくる。
遺骨の無くなった墓で手を合わせる悔しさをあなた達盗人共犯者には判らないだろう。
日本人類学会や京都大学は犯罪の片棒を担いでいることを自覚し謝罪して遺骨を我々に返すよう要求する。
以上