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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 「ラジオ体操第一」の作曲者、服部正(はっとり・ただし)さんに師事した小林亜星(こばやし・あせい)さんは、師から三つの教えを授かった。一つは「自分からアーティストを名乗るな」、二つ目は「つまらない仕事はない。まず職人になれ」だった▲面白いのは三つ目が、前二つとまるで逆のように見えることだ。「自分が音楽の神様だと思え」。つき合わせると、芸術家ぶることなく自分の才能に自負を持てということだろう。ほどなく時代は小林さんにその活躍の舞台を与える▲「プールサイドに夏が来りゃ」といえば、スッと頭によみがえるメロディーが小林さんを時代の先端へ押し出した。レナウンの「ワンサカ娘」から始まった小林さんのCMソングは高度経済成長で日々姿を変える人々の日常を彩った▲「CMは自分が主役になれる。サウンドやミュージシャンも全部自分で選べる」。まさに職人にして神様でもあった当時のCMソング作りだった。後に「北の宿から」を生んだ作詞家の阿久悠(あく・ゆう)さんとのコンビも、最初はカップヌードルが発売された時のCMであった▲そしてドラマ「寺内貫太郎一家」での昭和の頑固おやじキャラが忘れられぬ小林さんである。自分はもっと優しい人間だというご当人だったが、平成のリメークでは寺貫は「暴君」だと視聴者の非難が殺到し、時代の変化を痛感した▲小林さんの訃報にある曲名を見て思わずメロディーを口ずさんだ方も多いだろう。師もそれを望んだであろう、人々の心に長く生きる「うた」の数々がこの世に残された。

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