MSNBCで放送されているニュース番組「Morning Joe」で発表された、ハーバード大学の入学者のジャンル別グラフが、今話題。

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ハリウッドで逮捕者まで出したセレブパパ&ママたちによるハーバードの裏口入学事件。それにともない、ジャーナリストのスティーブン・ラトナーがMSNBCの番組で、ハーバード生の家庭背景を調査したグラフを発表したところ、ハリウッドセレブたちにもリツイートされて、注目トピックになっている。

まず挙げられたのは入学確率。ハーバードの合格率はわずか6%の狭き門だ。

でも、これを「Legacy」つまり近親者に卒業生がいる学生に絞ると、合格率はなぜか34%にアップする。親がハーバード卒だと子の学力が34%アップする......わけはない。
さらに「Dean and Director's Interest List」だと42%にあがる。これは学部長の推薦リストに入るような「お金持ちか有名人」のこと。もちろんここには高校時代に学力コンテストに優勝したり、10代でプロデビューするような芸術家など有名人が含まれるが、有名人の子息たちも多く含まれる。
同様に、「Child of Faculty or Staff」≒教授等の大学関係者の子息だと47%。スポーツ推薦者は、ダントツの86%の合格率を誇る。何もない学生にはハーバードは相当高い壁になっている様子。

「ゴシップガール」 (シーズン2, 2008-2009)
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(写真)「ゴシップガール」 シーズン2 ‟ユー・ガット・イェール”より

ここまでは、多くの青春映画やドラマにおいて、米名門大学入学にコネ作りがいかに重要であるか、さんざん描かれてきたので、さほど驚くことでもない(とくに「ゴシップガール」での、学部長に売り込むためにセリーナとブレアがキャットファイトするエピソードは有名すぎる)。それに多くのスポーツ推薦者は、日本でも特別枠として周知されているし別におかしくもなんともない。入試は平等ではない。

広く知られている通り、アメリカに限らずいくつもの国の私立エリート校は、ハーバードやイエール同様、アファーマティブアクションという形で社会に貢献しているため、学力だけで選別する‟フェア”な入試はそもそも期待されていないのだ。

ものすごく乱暴な表現をすれば、ここで言うアファーマティブアクションとは、お金はあるけど学力はそこそこな学生(の親)からたっぷり寄付金を巻き上げ、才能は抜群だけどお金がない(もしくは差別によりチャンスがない)学生を奨学金の形でサポートする、素敵な相互扶助システムで出来上がっている。

日本のような比較的卒業が容易な国と比べ、進級・卒業が厳しいアメリカではお金だけで入学した生徒がいたとしても淘汰されるため(されない場合もあるが)、卒業生のクオリティもある程度担保される。

ここまでいくと、セレブの親が大学にお金をつぎ込んで子供を入学させても、何の問題もないように見える。

ではなぜこれほどまでに問題になっているのか。

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MSNBC
(写真)ハーバード大学生の構成を示すグラフ

ひとつは、エリート私立校の‟義務”とも言えるこの相互扶助システムが機能しなくなっているから。

次に掲出された「空席が少ない」と題された、クラスの構成グラフ(上)がそれを説明してくれる。

学内入学手段別人口分布とも言えるこのグラフによれば、学部長リスト入り学生が10%いる。ここは推薦入学として一旦無視しておくとしよう。
 
しかし、スポーツ推薦学生が1割強、卒業生の子息が4割近くもいることで話がおかしくなってくる。

この「Legacy」は、ハーバード・ブランドの継承者。でもこれだけ入学確率で優遇されるなら、このバーバード卒か大学関係者である親(もしくは親類)がせっせとコツコツ母校のために寄付金を積んできたり、何かあればハーバードに資金を投入してくれたりでもしていないかぎり、4割を占めるには割に合わない。もしくは子息が在学している間に授業料以上の何かを納めてくれるのならいいが、ハーバード大卒業生が他大学卒業生よりも平均的に給与が高いとはいえ、彼らがミリオネアである可能性は低い。

カリフォルニア大の教授らが2017年に発表した調査結果によれば、ハーバード卒男性の平均収入は110,200ドル(約1200万円)。もちろんここにはジェンダーギャップも存在し、女性だと76,400ドル(約850万円)になる。しかも平均を超えている卒業生は11%しかいないとハーバード大自身が公開しているデータが明かしている。つまり、「Leagacy」たちの親が、たとえ両親ともハーバード卒であったとしても、寄付金をたっぷり積めるほどのお金持ちである可能性は低い。それなのに4割も「ただの」コネ入学を入れたりしたら、なんの足しにもならないどころか収入の足を引っ張っていると言える。

実際、ハーバードだけでなく、全米で富裕層学生が優秀な学生をサポートする構図が崩れてきているとスティーヴン・ラトナーは指摘。

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MSNBC

「ニューヨーク・タイムズ」が発表した80のエリート大学における、学生がどの経済階層からきたのかを示すリストを引き合いに出し、彼が説明したのは「格差の拡大」。

これによれば2002年を境に、上位1%の富裕層と下位40%の割合が逆転し、その差は広がり続けている。親が十分な寄付金を積める、もしくは積める可能性がある子供はどんどん送り込まれてはいるが、小金持ちのコネ入学者が幅を利かせることで、経済的に苦しい家庭の子供が奨学金をもらって勉強できる席は減っている。

そのうえ奨学金は、1割もいるスポーツ推薦学生(番組内でもハーバードのフットボールチームは金銭的な創出がないことが指摘されている)にがっぽり奪われ、コネも何もない中間層の子供たちは入学するだけでも大変なのに、高額な授業料(ハーバード大の平均年間授業料は日本円で約160万円超)を負担するため親か本人が多額のローンを抱えることになる。こうした結果、とくに授業料が高い理系学部では、能力はあってもそもそもハーバードを目指さない学生が増加しているという調査結果もある。

学問に秀でたふつう以下の家庭の学生がハーバード大学に入学することが困難になっていて、超富裕層かそこそこの金持ちしか入れず、極貧家庭の子どもは天才でないと入れない。これはまさに、格差拡大社会そのもの。

大学は放っておけば格差や差別を反映した人口分布に簡単に成り下がる。だからこそハーバードやイエールなどの大学が、意識的にインクルージョンを進めるため、コネという名のアファーマティブアクション(恣意的差別、格差是正処置)が許されてきたのに、その結果が「ハーバードに入れたければ、勉強させるよりスポーツをやらせたほうが確立が高い。じゃなければ身内の子どもに生まれるしかない」などという状況になっていれば、本末転倒だ。でも「そんなこと」が本当に実現しつつあるアメリカ。そこへの危惧がひとつ目の理由と言える。

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フェリシティ・ハフマンの裏口入学斡旋が逮捕劇にまでなぜ至ったのか。2つ目の理由は年間何億円も稼ぐハリウッドセレブが金を払った先が大学ではなく、入試担当者個人だったから。

ひとり分の苦学生の授業料にもならない160万円ぽっちのお金を大学に入れるでもなく、個人に支払い入試操作をした。そんな安い金額でトップ大学への入学優遇措置が許されると思うな。お金で子供を入学させたいのなら、表から正々堂々とたっぷり金を払って貧しい学生を助けろ。

そんな怒りが表れたのだとすれば、「裏口入学けしからん」的な意見とはまた別の理由で、納得できるような気もする。

この解決策として、積極的優遇措置の差をさらに拡大する、つまり富裕層の子息からとる授業料をもっと高額にするべきだとの主張もここではされているが、結局この議論で明らかになったのは、学問の場でもお金がものを言う事実。

では日本のようなテストのみの選抜方法にしたらいいのか、といえばそうでもない。実際国立である東京大学生の親の平均年収はどんどん上がり、ここでも学力と経済状況が相関関係にあることが露見してしまっている。
 
アファーマティブアクションをしてもしなくても表れる「富≒エリート」の構図。これを崩せなければ、もう学歴で能力のマウントを取るのは無理なのかもしれない。