三重県津市に2021年にオープンしたラーメン店「麺処 やま田」の醤油ラーメンは、14種類の醤油を使って三重の食材で作られたコク深い逸品だ。

■ダシやタレ、麺やチャーシューも…三重県産の食材にこだわった至福のラーメン

 ダシやタレ、麺やチャーシューにも三重県産の食材を使った、こだわりの「しょうゆらぁ麺」。深い旨味とコクのあるスープが自家製の麺に程よくからみ、ひと口すすれば得も言われぬ至福の味わいが広がる。

【動画で見る】年間800杯食べ編み出した職人技…地元食材にこだわる“ラーメン通店主”の手仕事「明日はもっと美味しく」

客ら:
「麺とスープの相性が最高です。チャーシューもめちゃめちゃうまい。全体的なバランスがいいです」

「まろやかというか。ちょっと他の店とは違う」

「さっぱりしているのに、しっかりした味で食べやすい。ほとんど、今ここにしか来てないくらい」

作るのは、山川晃史(やまかわ・こうし)さん(50)。年間800杯も食べてきたラーメン通だ。

山川さん:
「体にやさしい、毎日食べられるラーメン。天然の素材だけでラーメンを作り続けたいなと思っています」

美味しさの秘訣は、山川さんの手間暇かけた手仕事。地元三重県の素材を贅沢に使い、丁寧に仕込み、14種類の醤油を独自の配合であわせたスープで、唯一無二のラーメンを生み出した。

山川さん:
「三重県の食材の素晴らしさはすごいなって思うんで、地元の人にも地元の食材を食べてもらいたいなと思うし、おいしいラーメンを作れるのも生産者の皆さんのおかげだと思っているので、本当に生産者の皆さんに感謝」

 三重県津市一身田町(いっしんでんちょう)、国宝建造物を有する「高田本山 専修寺」。

そのすぐ近くに、山川さんの店「麺処 やま田」はある。2021年8月にオープンし、瞬く間に地元の人気店となった。

店内で一際目立つのが、壁に飾られた写真。

三重県で醤油や塩、鶏肉などを作る生産者だ。山川さんはすべての生産者を直接訪ね、惚れ込んだ食材のみでラーメンを作っている。

「しおらぁ麺」は、県内4か所の製造元の天然塩を独自の比率でブレンドした人気の一杯。

「追い鰹らぁ麺」には、志摩市の本枯節(ほんかれぶし)を贅沢に使っている。

看板商品は「しょうゆらぁ麺」。県内8つの蔵元から、「丸大豆醤油」や「たまり」など14種類をブレンドした逸品だ。

山川さん:
「(醤油)蔵に棲んでいる菌ってそれぞれの蔵で違うので、同じ材料で同じ期間、醤油を作ったとしても、Aという蔵とBという蔵で作った醤油では、全然味も香りも違うものが出来上がってくる。混ぜたほうがうま味が幾重にも重なって、味に深みが出るし香りが立つな、というのが私の考え方なんです」

山川さんが特にこだわるのは「ダシ」と「醤油ダレ」。素材を活かす、究極の「しょうゆらぁ麺」作りを見せてもらった。

■16時間かけてじっくりとうま味を抽出…鶏ガラではない“鶏肉のダシ”

 まずはダシから。取り出したのは、朝挽きの丸鶏。

山川さん:
「伊勢赤どりと熊野地鶏を使っています。新鮮。どっちも肉がおいしいんですよ。そのまま放り込んでもいいんですけど、ダシが出やすいように切り込みだけ入れています」

2種類の鶏を寸胴鍋に入れ、いわゆる「丸鶏ダシ」を作るが、素材はこれだけだ。

山川さん:
「普通、鶏のスープというと鶏ガラでスープをとられるところが多いんですけど、臭みが出るというのかな、鶏独特の。ネギとかニンニクとかショウガとか入れて、調整をしていくっていうのが鶏ガラのスープ。うちの場合は鶏の肉のスープ。臭い消しをしなくても、おいしくて臭みがないから」

鍋に注ぐ水は軟水。ダシが出やすくなるという。

約16時間火にかけ、じっくりとうま味を抽出する。

山川さん:
「アクを取りますけど、ほとんど出ないです。白いのはアクじゃないです、うま味ですよ。アクはもっと茶色っぽい。本当にいい鶏です」

わずかに出るアクを取り除き、かき混ぜたり水を継ぎ足したり。シンプルな作業だが、決して気を緩める事はできない。これも素晴らしい食材を最大限に生かすため。

最後にダシを濾せば、「熊野地鶏」と「伊勢赤どり」の濃厚なうま味が凝縮した、透き通った美しい「丸鶏ダシ」の完成だ。

山川さん:
「(味見して)うまい」

■8つの蔵の醤油14種類をブレンドして作る「醤油ダレ」

 続いては醤油ダレ。三重県内の8つの蔵で造られた14種類をブレンドする。中でもベースが…。

山川さん:
「この3本が、すぐそこの一身田の下津醤油の醤油です」

同じ一身田地区にある創業166年の「下津醤油」は、「全国醤油品評会」で最高位を受賞した老舗。

山川さん:
「ひとつが、三重県産の大豆と小麦で作っている丸大豆の醤油です」

さらに、それを18か月以上熟成したものと「淡口(うすくち)醤油」の3本を使う。

製造元の社長は…。

下津醤油の社長:
「醤油ってただの素材、と言ったらそれまで。それだけではお客さんが喜ぶのが見えないけど、生まれ変わるわけですよね、醤油がおいしいラーメンに。それは喜びしかない」

山川さん:
「これが作れるのは、生産者のみなさんのおかげというところだけは伝えたい」

 ブレンドするときはそれぞれの醤油の特徴を見極め、配合の割合や入れる順番も決めている。まずは丸大豆醤油から。下津醤油を筆頭に、四日市市や伊賀市、玉城町の蔵元と続き、他にも次々と。地元で愛され続ける伝統の味が、山川さんの手によって新たな味へと生まれ変わる。

山川さん:
「もったいないから最後の一滴まで出します」

「淡口醤油」と「白醤油」も入れたところで、沸騰しない程度に熱を加える。

山川さん:
「残りの醤油は火入れをしません。これは再仕込み醤油なんですけど、すごくいい香りがするので、これは最後の最後に入れます」

醤油を再度醸造した「再仕込み醤油」や、独特の香りを持つ「たまり」は、火は入れずあとで加える。

1時間半ほど経ったら火を止めて、鈴鹿市などの「たまり」を注ぎ、椎茸や昆布、海老に貝柱などをブレンドしたうま味が詰まったダシを加え…。

山川さん:
「香りがめちゃめちゃ立ちます」

最後に、伊勢市の「再仕込み醤油」で仕上げる。

生産者のこだわり、思いが幾重にも重なった「醤油ダレ」の完成だ。

深いうま味はもちろん、馥郁(ふくいく)たる香りが厨房に広がった。

■北海道から沖縄まで ピークは年に800杯以上…ふるさとの食材の魅力に気づき地元で出店

 伊勢市で生まれ、大学進学を機に上京した山川さん。そこで魅了されたのがラーメンだった。

山川さん:
「ピークの時は、年間800杯以上ラーメンを食べていました。それくらい本当にラーメン好きで。北は北海道から南は沖縄まで、いろんなおいしいラーメンを食べた」

転機は、これからの人生について考えた44歳のとき。

山川さん:
「本当にやりたいことをやらなきゃ悔いが残るかなと思ったんですよね。本当に好きだから打ち込めるし、楽しんでできるかなと思って」

有名店を渡り歩き、5年間の修業。同時に食材探しをする中で、ふるさと三重県の食材の素晴らしさに気づき、この地で出店することを決めた。

■ふるさとの思いが詰まったラーメンの完成 追い続ける「おいしいラーメン」

 いよいよ、「しょうゆらぁ麺」作り。まずは器に醤油ダレ、そこへダシ作りでとった鶏油「チーユ」を加える。

丸鶏ダシは、さらに鰹系とにぼし系、2つのダシを加え、より一層味わい深いトリプルダシに。熱々を醤油ダレと合わせる。

自家製麺は、三重県産の小麦粉を中心に5種類をブレンドした、スープが程よく絡む中細麺だ。

トッピングは3種類のチャーシュー。「伊勢うまし豚」の肩ロースとバラ肉、そして「伊勢赤どり」の「せせり」。

最後に、穂先メンマと九条ネギ、海苔を乗せれば、山川さんのふるさとへの思いと丁寧な手仕事が生んだ、「しょうゆらぁ麺」(1000円)の完成だ。

食欲をそそる醤油の豊かな香り。ツルツルもちもちの麺をすすれば、スープの深いうま味とコクが広がり至福の時間へ誘う。

山川さん:
「今日より明日、明日より明後日、もっとおいしいラーメンにしよう。追い続けるのかな、毎日毎日。これからも進み続けます」