陸上・駅伝

特集:第55回全日本大学駅伝

東農大が14大会ぶりに伊勢路へ スーパールーキー・前田和摩が日本人トップで貢献

全日本大学駅伝出場を決め、喜ぶ東農大の選手たち(すべて撮影・藤井みさ)

第55回全日本大学駅伝対校選手権大会 関東地区選考会

6月17日@相模原ギオンスタジアム(神奈川)

1位 城西大学   3時間57分35秒40
2位 大東文化大学 3時間57分50秒77
3位 東海大学   3時間57分58秒89
4位 東京国際大学 3時間59分02秒86 
5位 東京農業大学 3時間59分20秒68
6位 帝京大学   3時間59分34秒06
7位 国士舘大学  3時間59分45秒19
----------ここまで本戦出場------------
8位 立教大学   3時間59分59秒49
9位 神奈川大学  4時間00分07秒27
10位 明治大学   4時間00分20秒02

6月17日の全日本大学駅伝関東地区選考会で、東京農業大学が5位に入り14大会ぶりの本戦出場を決めた。原動力となったのは最終組を走ったルーキーの前田和摩(報徳学園)の圧巻の走りだった。

「潰れてもいいから前に」

3組終了時点で東農大は暫定12位、7位とは46秒の差があった。4組目には各校の留学生がエントリーし、ハイペースなレースとなることが予想された。入りの1000mは2分48秒、次の1000mは2分45秒、2分51秒とペース変動がありながらも速いペースでレースは進む。大きなひとかたまりだった集団は次第に縦長になり、3000m手前で東京国際大のアモス・ベット(1年)、国士舘大学のピーター・カマウ(3年)、山梨学院大のジェームス・ムトゥク(2年)ら留学生の引っ張る先頭集団と第2集団に分かれた。

前田は大集団の中ほどで走っていたが、集団が分かれたタイミングで先頭集団の最後尾についた。3000mから4000mは2分52秒、2分51秒、2分44秒とレースが進んでいく中で徐々に先頭集団もしぼられ、ムトゥク、カマウ、ベット、麗澤大学のデイビッド・シュンゲヤ・ネイヤイ(2年)と前田の5人に。カマウが下がり先頭は4人となったところで、ラスト1周手前のホームストレートで前田が初めて先頭に立ち、会場は大いに沸いた。ラストの直線でベット、ムトゥクにかわされたものの、叫びながらゴールした前田は大きなガッツポーズを見せた。

前田はゴールして大きなガッツポーズを見せた

レース後、前田は「思い切って留学生の集団についていく判断ができたことが今日の結果につながったと思います」と充実した表情で口にした。レースプランとしては、日本選手1位の選手を見ながら走り、チャンスがあれば日本選手1位を狙うつもりだった。だが周回を重ねるごとに他の選手が下がり、自らが日本選手1位のポジションで走ることになった。

「ここまできたら最後までいくしかないと思いました。監督、コーチからも『行くぞ』と言ってもらって、農大の応援もいっぱい聞こえて、そこに背中を押されたのかなとも思います」。高校3年時のインターハイでも、留学生とともに走り、集団のペースアップについていって粘るという経験をしたことも頭にあった。「それが自分のいちばんの強みだと思ってずっと練習もしてきているので、そこで前に出るしか自分の良さを生かす方法はないかなと思って、思い切って判断できたのが良かったのかなと思います」

ラスト1周手前で前に出た意図を問われると、関東インカレ2部5000mの時も先頭集団で走っていたものの、最後まで前に出ずスパートで負けて5位となったことに触れ「そこで後悔するぐらいだったら思い切って前に出ようと。1回やってみないとわからないので、潰れてもいいから前に行って勝負しようという思いを持っていたのでそこで前に出ました」と話す。

ラスト1周手前、思い切って先頭へ。この判断ができるのも前田の強さだ

チームのために100%の力を出し切れた

これが前田にとって初めての10000mのレースとなったが、28分03秒51と日本トップレベルの選手にも引けを取らないタイムをマークした。「今までやってきたことが100%出せたと思うので、今日は僕の中では100点をあげていいと思います」と笑顔を見せる。しかしタイムについては28分40秒切りとなる39秒を目標に置いていたといい、「まさかここまで出るとは思わなかったです」と口にする。

関東インカレが終わってからも先輩の高槻芳照(4年、学法石川)、並木寧音(4年、東京実業)とともにいい練習が積めていたという前田。練習の時も最後、余裕を持って終わるようにしたり、監督とコーチと話し合って出されたメニューにプラスして練習をすることもあるという。

すべての人との出会いが自分を作っていると話す前田。今後の活躍からも目が離せない

4組目は並木とともに走ったが、2組終了時点で12位、48秒差ということは聞いており「自分たちが力を出したら全然(通過圏内に)いけると思うから、がんばろう」と声をかけられた。3組目でキャプテンの高槻が先頭でレースを進めた姿にも勇気をもらった。「先輩たちが頑張ってくれているので、もちろん自分も100%を出してチームに貢献するしかない、もうやるしかないと思って力を出し切れたんだと思います」

監督やコーチが親身になって、寄り添って練習のことを考えてくれ、先輩たちからも競技に限らず普段の生活でもアドバイスをもらっているという前田。「本当に今までのすべての人との出会いが今の自分を作って、今の自分の走りにつながっていると思います」。出場を決めた後は笑顔を見せ、改めてチームの応援が力になったと話した。全日本大学駅伝ではどういう走りをしたいかと聞かれると「まだそこまで考えられていないですが、今日みたいに思い切った走りができればと思います」と頼もしい。まだまだ前田の大学生活は始まったばかりだ。

小指監督「前田は学生記録も破れる」

小指徹監督は1組目、2組目でできれば一桁順位にいたいと考えていたが「ちょっと苦戦しましたね」と話す。「3組4組は自信がありましたので、通過できるかなという思いもありました。12番だったのでどうかなと思いましたが、最後前田が期待通りの走りをしてくれました。前田さまさまですね」とルーキーの走りをたたえた。

小指監督も前田の力を大いに評価しており、だからこそ最終の4組目にエントリーした。留学生についていける力もあり、「負けても2、3人ぐらいかなと。それぐらいの力があるとも思っていました」ともいう。「実力があるので楽しみですね。在学中に学生記録を破れるぐらいいけるのではないかと思います」

前田の力を高く評価している小指監督。チームが変わってきているとも感じている

前田は「自分が遅い時から農大には声をかけてもらっていた」と話していたが、その意図をたずねると「並木、高槻と力のある選手がいますので、これを生かすにはもっと強力な選手が欲しかったということで、前田を獲得できたことは非常に意味があったことだと思います」。実際にチームがすでに変わってきたという実感もあるという。

主将・高槻「全員駅伝ができるチームに」

3組目で飛び出し、先頭で積極的な走りをした主将の高槻は、3月から4月は体調を崩してしまうことが多く、関東インカレでも思うような走りができなかった。しかし関東インカレ後にいったん休養をはさみ、試行錯誤しながら練習を重ね、この日は自信を持ってスタートラインに立てたと話す。「最初けん制しあっていたので、動きが悪くなって途中でたれるよりは、出ちゃった方がましかなと思いました」と思い切った判断の理由を明かす。

キャプテンとして思い切った走りを見せ、チームに勇気を与えた高槻

チームとしては5位通過を目標にしていた。「ギリギリで通過という目標にすると、どこかで足元をすくわれてしまうので、5位を目標にしていたんですけどまさか……すごいです」と笑顔を見せる。今のチームとしては、初めての駅伝出場となる。「楽しみです。練習は自分と並木が今まで通り引っ張って、前田という大砲に頼り切らず、底上げしつつ、全員駅伝ができるチームになりたいと思います」

古豪と言われた東農大が、ついに駅伝に帰ってきた。伊勢路ではどんなレースを見せてくれるのか、今から秋の楽しみが1つ増えた。

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