2024年 4月 23日 (火)

自民若手が消費税ゼロ提言、なぜ? 中心メンバー・安藤裕氏に「真意」聞いた

   新型コロナウイルスの感染拡大にともなう「コロナ不況」が現実味を帯びる中、与野党から消費減税の可能性に言及する機会が増えてきた。

   そんな中で、「減税」にとどまらず、消費税率を「ゼロ」にすべきだとする提言を2020年3月11日に打ち出したのが、自民党の若手議員らによる議員連盟「日本の未来を考える勉強会」。この勉強会は、元々消費税率10%への引き上げに反対するなど「党内野党」ぶりを発揮してきた。勉強会中心メンバーの安藤裕衆院議員に、提言の狙いを聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 自民党の安藤裕衆院議員。若手議員らによる議員連盟「日本の未来を考える勉強会」の中心メンバーだ
    自民党の安藤裕衆院議員。若手議員らによる議員連盟「日本の未来を考える勉強会」の中心メンバーだ
  • 自民党の安藤裕衆院議員。若手議員らによる議員連盟「日本の未来を考える勉強会」の中心メンバーだ

まずは「廃業しないで下さい」というメッセージを

   ―― 内閣府が3月9日に発表した19年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値が、物価変動を除いた実質で前期比1.8%減、年率換算で7.1%減でした。これは新型コロナウイルスによる影響を含んでいないので、20年1~3月期は、さらに厳しい数字が出そうです。そういった中で発表された提言で、目玉は「消費税は当分の間軽減税率を0%とし、全品目軽減税率を適用すること」。5%への引き下げを唱える野党はいますが、あえて「0%」を打ち出した理由を教えてください。

安藤: 2017年に立ち上げた我々のグループ「日本の未来を考える勉強会」は、消費税率を10%にはするな、5%に減税するべきだと、ずっと言い続けてきたんですね。それでも全然日の目を見ずに、19年に10%になりました。それで御存知の通り「マイナス7.1」です。マイナス7.1に加えて新型コロナウイルスの影響が来るわけですから、5%に下げるくらいじゃとても足りない。もう0%にするくらいしないと日本経済の落ち込みを救うことは出来ないと思います。

   ―― 提言では減税のタイミングについて「6月を目指し、各種調整を速やかに行うこと」とあります。減税をめぐる議論では「システム改修はどうするんだ」という声もあります。

安藤: そういった指摘はツイッターにも寄せられますが、「それも全部国が出しますから」と、大変ですが急いで進めるべきです。そうしないと、時間がかかるうちに買い控えが進んでしまいます。

   ―― 政府が3月10日に打ち出した緊急対策では、中小・小規模事業者を支援するための「特別貸付制度」などを打ち出しています(編注:インタビューは3月17日に行われた)が、提言では「失われた粗利を100%補償する施策を講じること(特別融資だけでは不十分)」とうたっています。

安藤: 1兆6000億円の段取りをしたと言っても、それも結局は融資なので、いつかは返さなきゃいけない。コロナの先行きが見えず、いつ収束するかわからない中で、借金して事業を続ける決断をする人もいるとは思いますが、これ以上借りても返済する自信がないから、これを機会に辞めようと考える事業者も、ものすごく多いと思います。そうすると、コロナが終息した後に経済を再生させようとしても、やってくれる事業者が存在しないことがありえる。それと同時に、失業者が続出することもありえます。そういう状況になってしまったらどうしようもありませんから、まずは「廃業しないで下さい」というメッセージを出さないと...。政府が色々なイベント自粛をお願いして、それに対して国民の皆様が応えて、コロナが蔓延するのを防ごうと、みんなで意識して頑張っているわけです。それを「借金して後で返して」というのは、あまりにもひどい対応です。そこは国が責任もって、その分の損失は補償しないと、事業者や民間の人はかわいそうだと思います。

   ―― 提言の「100%補償する施策」は、フリーランスの人も対象になるのですか。

安藤: もちろん入ります。提言では「安心して休業できることは、有効な防疫対策にもなる」とうたっています。毎日仕事に行かないとその日のお給料が入らない、暮らせないという方が大勢いる。補償するということを言っておかないと、そういった方々が隠れて仕事に行ってしまうということが起こってしまいます。「安心してください。休んだ分政府がちゃんと補償しますから」というメッセージが大事だと考えています。

   ―― 経済対策としての「給付」を求める声もあります。

安藤: 給付だと貯蓄に回りますから、効果は相当減ると思います。全部が消費に回ればいいけど、そうはならないですからね。

   ―― 所得が低い人を選んで給付すべき、だという声もありますね。

安藤: 現金で給付するとなると、各地方自治体が最終的な事務をやらなければなりませんが、この状況ではパンクしかねません。

国債は「100年後に返します」「200年後に」でもいい

   ―― 提言では、国債を財源に30兆円規模の補正予算を編成し、2025年のプライマリーバランス黒字化目標は当分の間延期することを掲げています。財務省が日本国債の格下げに反発して出した文書では、 「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」 「更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい」 と主張しています。それでも、国債はいつかは返さなければならないと思うのですが、スケジュール感はどのようにお考えですか。

安藤: それが大きな課題ですね。「いつかは返さなきゃいけない」と考える人が日本人のほとんどだと思いますが、国債は実は借金ではなくて、国が通貨を発行するという行為なんですよ。つまり、国が通貨を発行してそれを民間に支出しますから、結局民間が豊かになるという行為なんですね。誤解を払拭するのが一番良いのですが、ここまで「借金だから返さなきゃいけない」という考えが世の中に浸透してしまうと、一気に払拭するのは難しい。そこで次の説明としては、国という経済主体はいわば「永遠」だというものです。ということは、いつか借り換えにいっても問題ないし、例えば「100年後に返します」「200年後に」といった話をしてもいいわけです。今、国債は60年で償還するルールで運用していますが、世界でこんなこと決めている国はどこにもないし、世界中が「国債は減らさない」というのが基本的なスタンスです。そういう世界標準に日本の財政も合わせていくべきです。我々の勉強会では、プライマリーバランス黒字化目標自体の撤回を主張しています。その(黒字化の)目標自体が無意味です。

一段落しても税率は「ゼロにしておけばいい」

   ―― 3月12日放送の「深層NEWS」(BS日テレ)では、「平成は停滞の時代。これを象徴するのが消費税」とも話していました。「コロナ恐慌」への対策が一段落した後は、消費税率はどの程度まで戻すべきだとお考えですか。

安藤: いいや。ゼロにしておけばいいです。ゼロにしておけば、その分所得税や法人税も上がっていきますから、そのほうがよっぽど経済が成長します。消費税がなぜダメかというと、「消費したらダメ」というメッセージを出す税金だからです。日本経済のメインエンジンは個人消費ですから、個人消費を一番ふかさなきゃいけない。消費税はメインエンジンにブレーキをかける税金です。仮に0%から3%などに増税するタイミングがあるとしたら、ものすごく景気がいいときです。そういうときは考えてもいいかも知れませんが、「巡航高度」ぐらいならば、上げることを考える必要はありません。

   ―― どうしても財源の議論は出てきます。

安藤: 政府の財政における財源は、国債と税をうまく組み合わせればいい。税だけで賄わなければいけないというイメージをみんな持っていますが、それが間違いです。景気が悪いときは国債を増やして、景気がいいときには税を増やして...というバランスをとっていけばいい話なので、財源は全く問題ありません。

首相会見で言及あったのは「大きかった」

   ―― 3月14日の安倍晋三首相の記者会見では、消費減税に関する質問が出て、明確な返答はありませんでしたが、「何をすべきかということについては、こうした提言も踏まえながら、世界経済の動向を注意深く見極めて、さまざまな可能性を想定しながら、今後、必要かつ十分な経済財政政策を間髪を入れずに講じていきたい」と、提言にも言及しながら答弁しました。どう受け止めましたか。

安藤: この提言に触れられたのは大きかったと思います。前向きかどうかは分かりませんが、検討の俎上にはのっているんだろうなと感じます。「これで実現できる」と楽観しているわけではありません。引き続き色々なところに働きかけていきたいです。

   ―― ご自身は麻生派に所属していますが、麻生太郎財務相は、3月10日の参議院財政金融委員会で、景気対策としての減税に「反対するつもりはない」と述べる一方で、3月13日の記者会見では、「一律減税しても(景気)刺激にはならない」と、減税には否定的な発言をしています。大臣と会話をする機会はありましたか?

安藤: この提言を出した後はありませんが、出す前に派閥の会合でお会いした時に、「消費税減税をぜひ考えてください」という話はしました。

   ―― 反応はどんな感じでしたか?

安藤: ニヤニヤしていました(笑)。

   ―― それは真意が読み取りにくいですね...(笑)。麻生氏は3月13日の会見で、キャッシュレス決済のポイント還元制度が最も国民から利用されたことを指摘しながら「効果があるものにしないと意味がない」とも述べました。

安藤: キャッシュレス推進とポイント還元は、天下の愚策ですね。麻生大臣の発言は、「消費税減税しても消費に回るとは限らない」という趣旨ですが、まず前段として、消費税増税したら(GDPが年率換算で)マイナス7.1になったわけです。消費増税自体が経済の土台を壊している。まず、そこを立て直さなきゃダメです。確かにポイント還元は使われたかもしれませんが、消費増税のダメージの方がよっぽど大きかった。マイナス7.1になったということは、ポイント還元をやったところで増税のダメージは抑えられなかったということです。

   ―― 規模の問題ですね。

安藤: 規模の問題に加えて、ポイント還元のキャッシュレスの推進は中小企業にとっては大きなダメージです。なぜかというと、いままでの資金繰りは現金取引なので、売った時に現金が入る。ただでさえ資金繰りに苦しんでいて「お金を貸してください」ってやっているときに、さらに資金繰りが悪化するわけですよ。「何してんですか!」って話ですよ。それに、キャッシュレスを入れたら決済手数料も取られて利益も減る。事業者にとって、何にもいいことはありません。

   ―― 東京五輪、パラリンピックの延期や中止の可能性に言及する声が出ています。仮にそうなれば、五輪で見込んでいた需要も吹き飛ぶことになります。さらに経済対策の規模を大きくする可能性については、いかがお考えですか。

安藤: プラス20兆円で、50兆円になるかもしれません。それぐらいの規模感が必要なのではないでしょうか。

安藤裕さん プロフィール
あんどう・ひろし 衆院議員、自民党政調総務部会 部会長代理。1965年神奈川県生まれ。慶應義塾高校、慶應義塾大学卒。相模鉄道株式会社でサラリーマンとして働きながら税理士資格を取得し、1998年に安藤裕税理士事務所を開設。2010年に自民党衆院京都6区候補者公募で選任され、12年12月に初当選。現在3期目。前内閣府政務官兼復興政務官。


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