世界は温暖化防止のため、再生エネルギーの活用などを模索している。だが、本当に化石燃料の消費を増やすことができるのだろうか。米国の大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得し、国際通貨基金(IMF)でシニアエコノミストとして活躍する筆者が、エネルギー市場を担当してきた知⾒を踏まえつつ、経済学者の視点から考察する。
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石炭燃料の消費は減らせるのだろうか(写真:PIXTA)
石炭燃料の消費は減らせるのだろうか(写真:PIXTA)

 国際社会では、二酸化炭素排出量の削減を目的とした脱・化石燃料の動きがあるが、化石燃料の消費量を減らすことが本当にできるのであろうか? 翌年の経済成長率も当てられない我々経済学者の予想ではあるが、この先20年間を見据えるとその可能性は低いと言わざるを得ない。

 先進国に限ると、化石燃料の消費は減少する可能性が高い。理由の一つは、先進国は人口増加、所得増加とも頭打ちで、そうした中でエネルギー効率の改善が続けばエネルギー自体の消費量が減少しても不思議ではない状況があるからである。加えて、先進国であれば再生可能エネルギーの利用により、脱化石燃料も進むであろう。

 問題は新興国である。化石燃料の消費の増加が中国、インドと言った新興国に移ってきているからである。中国、インドは自国産業保護、エネルギー安全保障の問題により石炭火力の推進速度をゆるめることはあってもその活用を放棄する動きは見られない。

 石炭による公害は多少、新設に関するブレーキになっている可能性はあるが、公害の元となる窒素化合物や二酸化硫黄(亜硫酸ガス)などは装置によって経済的に除去できるレベルになっており、どの程度の歯止めになるかは疑問である。

新興国がカギを握るが……

 また、中国、インド以外でも、アフリカなどの新興国では、パイプラインやガス化装置の必要な液化天然ガス(LNG)を利用したガス火力発電より、安価な石炭火力の方が当然魅力的に映るであろう。二酸化炭素の排出量の観点からすれば、新興国における石炭の消費が鍵を握ることになる。これに関しては後ほど詳細に検討したい。

 石油に関して言えば、電気自動車の普及などで需要が頭打ちする可能性は高い。筆者が参加した“The Future of Oil and Fiscal Sustainability in the GCC Region”というリポートでも詳述しているが、人口増加、経済成長の低下に加え、所得水準の上昇によって、経済成長に必要な石油消費量の成長が落ちる傾向があるためである。

 政策介入をしなければ、20年後には現在の水準より高い消費量になってから頭打ちとなる。しかも、仮に先進国でパリ合意並みの政策介入があり、中国が電気自動車に力を入れたとしても、ほぼ現在と同水準の消費量になってしまう可能性が高い。

 当面の間はインド、中国などの新興(中進)国が先進国に追いつく過程で、電気自動車よりも安価なガソリンやディーゼルの自動車が普及し、また、自家用車における電気自動車のように代替エネルギーがまだ確立していない大型自動車、船舶・航空機などによる石油消費量が増えるためである。

 もちろん、世界的に二酸化炭素の価格が現在の価値、すなわち1トン150ドル以上になれば、それなりの需要の減少が起きるであろう。1トン150ドルというのは、原油で言えば1バレルあたり60ドル程度となるので、消費サイドでは原油価格が2倍近くなるのに匹敵するインパクトだ。

 一部の国では燃料税や排出量取引を導入しているが、IMFの財政モニター(2019年秋号)によれば、世界平均で見ると、現在の二酸化炭素価格は2ドル程度と安価で、需要の削減につながるレベルにはほど遠い。こうした価格の上昇に対応する形で、消費量削減につながるような技術革新(エネルギー効率の改善)が起こってくるだろうと思われる。

 ちなみに二酸化炭素価格が上昇した場合、原油の需要は減少するので、石油生産国ではむしろ生産者価格の減少に見舞われる。この炭素価格の分担割合は経済的には生産者と消費者の長期の供給・需要価格弾性値によって決まってくるが、仮に現在の原油価格が55ドル(長期的な平均値)として、最終的には消費者価格95ドル、生産者価格35ドル程度の水準に落ち着くのではないか。

 現在のところ、ガソリンなどに対する高い燃料税が課されている国がある一方で、燃料価格に対して補助金のある国もあり、政治的に受け入れられる形で炭素税が導入されるのは時間がかかると思われる。二酸化炭素価格は炭素税の形で化石燃料に負荷する形が一般的であろうが、政治的にこうした燃料税の導入が難しい場合は排出量取引などで一部のセクターから始めることも考えられ得る。(詳しくは第7回で)

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