- ポスト
- みんなのポストを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
困った時にこそ人と人がつながり、支え合う。それには二通りあって、大きなシステムで広く支える形と、顔がみえ声が聴こえる関係で支える形。新型コロナ禍の中で学生たちを支援するにも、この両方が大切だと痛感する。
アルバイト収入や仕送りが減り、退学を考える学生も出てくる。私が勤める大阪府立大(辰巳砂昌弘学長)では、学長自ら「絶対に見捨てることなく必ず救う」と決意を表明し、ユニークな取り組みを始めた。
国や府は今春から修学支援制度を拡充し、緊急時の支援策も次々と打ち出している。その大きな制度に学生をしっかりつなぐサポートが、まずは大切だ。他方、公的な制度は既定の一律基準で線引きするので、どの制度でも救えない学生が出てくる。「進学時に親に逆らって自分の意志を貫き、仕送り無しなのに実家の収入が高くて」「人生に悩んで寄り道して留年」「学費を得るバイトに追われて成績低下、奨学金が打ち切られ悪循環に」こんな個別事情に寄り添って支援するには、どうすればよいか。
「最後のとりで」として、教員と学生センター(学生課)が連携した「緊急相談体制」と大学独自の「支援給付金」を組み合わせた仕組みを考案した。
府立大では以前から、修学上だけでなく生活全般の相談・助言をする教員、「学生アドバイザー」を選任してきた。4年生や大学院生は研究室の指導教員がいるが、1~3年生は手薄になるためだ。対面でのサポートが難しい事態なので、まずウェブ相談のサイト(WEBSC)に経済的な相談窓口を特設した。
アドバイザー教員から担当学生に直接メールでコンタクトしてチャンネルを開き、この特設窓口へ誘導する。そこで事務スタッフが既存の制度につなぎ、それでも救えない学生を、教員に紹介して面談を依頼。面談者は、きめ細やかに困窮した個人的な事情を聴いて、コメントを申請書に記入する。それを尊重しながら最終的に学生センターで給付金の支給を決定する。
難しい仕組みだと思う。学生の事情を聴く大学の教員もスタッフも、とても手間がかかる。それだけではない。標準化した指標での線引きではないので、誰がしても同じ判断になるとは限らない。このリスクを最小限にするために、二重三重にフィルターをかけつつも、あえて面談プロセスは核心部分に残した。一般的に判断できない個別的な妥当性を重視するのが、この独自制度の特徴だからだ。それでこそ、他のさまざまな制度から見放されて追い込まれた学生に届く制度となる。
学生にとって、指導の関係にある先生に立ち入ったデリケートな事情まで話せるかどうか、そこにハードルがある場合もあろう。難しい場合には、それに配慮して第三者的なサポートも用意したい。ただ願うのは、この機会に、学生たちと教員や学生センターのスタッフとの間の絆、困ったときには相談してよいし、大学側も見捨てることなく支えてくれるとの信頼関係が強まることだ。そうなれば、この難局の後に大事なものを残すことができると思う。
幸福の形はどれも似ているが、不幸の形はそれぞれ違う――トルストイはこう指摘した。
コロナ禍の経済状況はますます深刻になるだろう。一人ひとり違う事情に寄り添う本学の仕組みは、一斉一時の支給ではなく、持続的に運用して随時支給していくものだ。多数の学生を大きな網で支えるシステムと、少数でも細やかでパーソナルなつながりを紡いで支える仕組みと。大学の責務として、両者が相補って働く支援体制を築いていきたい。=次回は6月26日掲載予定
■人物略歴
吉田敦彦(よしだ・あつひこ)さん
1960年生まれ。京都大大学院修了。大阪府立大教授、副学長、学生センター長。日本ユネスコ協会連盟理事。専門は人間形成論、教育哲学。近著に「世界が変わる学び ホリスティック/シュタイナー/オルタナティブ」(ミネルヴァ書房)。