大阪府立大学

世界初!光の力で原子スケールの構造を可視化 ―ナノ粒子が持つ光触媒機能の画像化に成功―

更新日:2021年6月23日

本研究のポイント

  • 光照射によって働く試料とプローブ間の力(光圧( 解説1))を計測する「光誘起力顕微鏡( 解説2)」で、高性能な光触媒(解説3)機能を持つナノ微粒子の近接場光(解説4)を画像化することに成功
  • 照射光による熱の影響を独自技術で排除し、世界で初めて1ナノメートル以下の分解能(解説5)を達成。光圧の3次元ベクトルの画像化にも初めて成功
  • 機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待

研究概要

石原 一 教授(大阪府立大学工学研究科/大阪大学大学院基礎工学研究科)、菅原 康弘 教授(大阪大学大学院工学研究科)、鳥本 司 教授(名古屋大学工学研究科)らの研究チームは、光照射により発生する力(光圧)を計る顕微鏡(光誘起力顕微鏡)を用いて、人工合成されたナノ粒子の近接場光を1ナノメートル(10億分の1メートル)以下の分解能で画像化することに世界で初めて成功しました(図1〜3)。

半導体や金属のナノ粒子は光触媒、太陽電池などに用いる光機能材料として注目されています。光を用いる走査型顕微鏡(走査型近接場光学顕微鏡( 解説6))は、このような試料の光学特性を反映した画像が得られる利点がありますが、原子スケールの分解能までは得られませんでした。今回、光を照射した走査型顕微鏡のプローブ先端とナノ材料の間に働く力(光圧)を高感度に読み取る新しいタイプの顕微鏡(光誘起力顕微鏡)により、桁違いの高分解能を実現することができました。

研究チームは高性能な光触媒材料として設計された複合ナノ粒子を複数の波長の光を用いて観測し、ナノ粒子が設計通りの化学的性質を持つことを原子分解能に迫る光圧画像で確認しました。超高真空中での観測を実現し、かつ光照射による熱の影響を除去する独自の工夫を加えたことが高分解能の鍵となり、光圧の3次元ベクトル像を取得することにも成功しました(図4)。機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待される成果です。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に6月23日 18時(日本時間)にオンライン掲載されました。

論文タイトル「Optical Force Mapping at the Single-Nanometre Scale」

SDGs達成への貢献

SDGsアイコン7、9

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。

研究助成資金等

本研究は、文部科学省科学研究費新学術研究領域研究「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」(領域代表 大阪府立大学 石原 一)の支援の下に行われました。

用語解説

解説1 光圧

物質に光があたると光は運動量を持つために物質に力が働く。また光電場の勾配があるときにも、光電場とそれにより物質に誘起される分極間の相互作用のため物質に力が働く。これらを光圧と呼ぶ。近接場光内で物質に働く力も光圧の一種である。

解説2 光誘起力顕微鏡

金属基板上の試料と金属コートされた走査型顕微鏡のプローブチップが光で照射されると、基板とチップのギャップ内で強い光電場が発生し、ギャップ内の試料近傍の近接場光とチップに誘起される双極子との相互作用のため両者の間に力(光圧)が働く。この力を高感度に測定することで試料の近接場光イメージを得る走査型の顕微鏡。

解説3 光触媒

光吸収した半導体中に生じる励起電子あるいは正孔が引き起こす化学反応。太陽光を用いた水の完全分解による水素と酸素の製造など、サステイナブルな技術として注目されている。

解説4 近接場光

物質表面や光の波長より小さな物質に光が照射されたとき、その周辺の、波長より差し渡しが小さい空間内に、伝播しない光の染み出しが発生する。照射される光と同じ振動数を持ち局在している振動電場。

解説5 分解能

測定装置などが、どれくらいまで細かい構造を識別できるかの性能を表す指標。1ナノメートル以下の分解能とは1ナノメートル以下の距離しか離れていない構造が識別できる性能を表す。

解説6 走査型近接場光学顕微鏡

光を照射された試料の表面を鋭敏なプローブで走査し、近接場光をプローブ先端で散乱させるなどして遠方での光信号を読み取って、試料の表面形状を最小10nm程度の分解能で計測する顕微鏡。

関連情報

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院 工学研究科

教授 石原 一(いしはら はじめ)

Tel 072-254-9268 Eメール ishi[at]pe.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。