エネルギー市場はいつ復活するのか、そして需要はどのくらい回復するのか。
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- 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、世界の石油と電力へのニーズはひと晩にしてどん底まで落ち込んでしまった。
- 英調査会社ウッドマッケンジーが発表したレポートでは、エネルギーの未来について3つのシナリオが想定されている。
- 第1のシナリオでは、2021年にワクチンが市場投入され、経済は迅速に回復。2020年代半ばには石油の需要もコロナ以前の水準へと回復していくとされる。
- 別のシナリオでは、政府がクリーンエネルギーへの支援を強化するため、2030年代に石油需要が急減するとされる。
2020年の年明け、「かつてない」から始まる予測が乱れ飛んでいた。「かつてない」再生可能エネルギーの成長、「かつてない」石油の需要、などなど。
そうした予測はことごとく覆され、いまや別の意味での「かつてない」にとって代わられた。
世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症の流行をパンデミックと宣言したのが3月11日、翌4月には原油需要が「かつてない」勢いで激減した。太陽光発電は2020年、史上初めて新設設備容量が前年割れを記録するとの予測が出ている。電気自動車(EV)の販売台数は半減の見通しだ。
目下の問題は、エネルギー市場はいつ復活するのか、そして需要はどのくらい回復するのか、ということ。その点について、英調査会社ウッドマッケンジーは5月12日にレポートを公表しているが、答えを直球で明らかにする内容ではなく、「完全回復」から「より良い成長」まで、3つのシナリオを提示するものだった。
「パンデミックがもたらす影響の上限はまだ確定できない。効果のあるワクチンが開発できるかどうかで、まだこれから変わってくる。11月に予定されている米大統領選挙のような政治的決定の結果によっても、エネルギー市場の今後の展開は変わってくる」
ただし、いくつかのトレンドは確実に見えてきている。例えば、政府は企業を規制するためにより積極的な役割を果たそうとしていること。また、旅行や出張を規制して、できるだけリモートでのやり取りを推奨することなどだ。
そうしたトレンドをもとにウッドマッケンジーのアナリストたちがまとめた、エネルギー産業の次の20年の姿を示す「3つのシナリオ」を見てみよう。
シナリオ1「完全回復」
この数十年、原油価格(WTI)は上下動をくり返してきたが、2020年4月後半、史上初めてマイナス価格を記録。その後回復はしたものの、中長期の見通しが立たなくなっている。
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このシナリオでは、2021年に新型コロナのワクチンが市場投入され、各国政府は経済成長に向けて大きな予算を投じることになる。2020年代の終わりまでに、世界は「パンデミックなど起こらなかったかのように」コロナ以前のGDPを回復する。
これは当然、世界の石油需要にとっても最高のケースだ。目下見られるような価格の乱高下は短期間でおさまり、2020年代のうちにパンデミック発生前の水準である日量1億バレルを回復し、2030年代半ばまでに日量1億1000万バレルを超えてピークに達する。
アナリストによると、需要の増大をけん引するのは石油化学産業になるという。
天然ガスの需要も高まり、2040年までに(2019年比で)34%増加する。その一方で、天然ガスと安価な再生可能エネルギーの利用が拡大し、2040年まで徐々に石炭に置き換わっていく。
シナリオ2「孤立無援」
石油需要の回復には、それを使用する産業の回復が必須だ。
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このシナリオでは、「新型コロナに打ち勝つのは予想より難しい」ことが明らかになり、貿易や旅行は制限され、「長引く不況とその後のスローな成長」に世界は苦しむことになる。
アナリストによる予測によると、ジェット燃料やディーゼルの需要は拡大を続けるものの、大きなダメージを受けた旅行産業の回復が追いつかず、ゆっくりとした成長にとどまるという。結果として、回復段階の初期は石油需要の伸びはほとんど期待できない。
「パンデミックが起きないことを前提に考えていた2020年初の予想を上回る可能性は、2030年まではほぼゼロです」
石炭の需要も増えるが、それもインドと東南アジアだけの話で、アメリカとヨーロッパから需要が減り、次いで日本や韓国、台湾でも減っていくので、結果的に相殺される。
シナリオ3「より環境に優しい成長」
第3のシナリオでは、各国政府の再生可能エネルギーへの支援が重点化する。
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最後に第3のシナリオでは、「短期間ながら厳しい不況が訪れるが、その後強い回復を見せる」。ただし、同じ「回復」でも第1のシナリオとは異なる展開になるという。
「(第1のシナリオと)違うのは、アメリカや中国、ヨーロッパをはじめ各国政府がエネルギーの転換を推し進めるための促進プログラムに力を入れることです」
つまり、クリーンエナジー導入プロジェクトや電気自動車に、政府からの税制優遇や補助金、低利融資制度などが提供されることになる。
このシナリオで進んでいく場合、次の10数年については石油需要は横ばいで、「2030年代に急激に減りはじめる」。さらに、2040年までには日量8300万バレルまで落ち込む。
最も注目すべきは、「石油と天然ガス、石炭を合わせたシェアは、2019年の84%から、2040年には68%まで縮小する」という記述だ。
一方、リチウムやニッケル、コバルトのようなバッテリー(充電池)に使われる貴金属の需要が大きく伸びる。
長期的に石油需要は減る
では、どのシナリオになる可能性が一番高いのか?
まず、シナリオ1の「完全回復」はありえない。ウッドマッケンジーのアナリストは、1920年前後に発生したインフルエンザのパンデミック後(終息後に活況を呈した「狂騒の20年代」がやってきた)を例にあげて説明する。
「想定されるリスクはどちらかと言えばマイナス方向に作用していて、石油需要はとりわけ厳しい状況にあります。経済成長の低迷、旅行の制限、貿易障壁、電気自動車へのシフトを加速する政府の方針、あるいはそれらいくつかの組み合わせ……理由が何であれ、コロナ以前に想定された石油需要は長期的に期待できそうにありません」
(翻訳・編集:川村力)