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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

キネマの神様

本作『キネマの神様』は、〈松竹映画100周年記念〉作品。ひとつの映画会社が、創業者の意志と遺産を引き継ぎ100年もの長きにわたって存続していることは、奇跡に近い。盛者必滅、離合集散を常とする映画の世界で、世界的に類を見ない偉業と言ってもいい。因に同業他社の東宝は84年、東映72年、日活76年。本作はその奇跡・偉業を見守ってきた〈映画の神様〉の「生誕100年への祝意」から生まれた〈奇跡の映画〉だ。 『キネマの神様』を監督した山田洋次は1931年生まれ。既に60年ものあいだ映画を作り続けている(監督デビュー作は61年『二階の他人』)。その山田監督が『キネマの神様』の同名原作(原田マハ)と出会ったのは2019年。新型コロナ流行によって撮影の中断を余儀なくされ、その直後、主演者志村けんの感染死亡によって映画存亡の危機に立たされた。主演者が死亡という未曽有の危機を乗り越えて完成したという現実は、本作をさらに〈奇跡の映画〉と思わせる。 物語はふたつのパートから成り立っている。〈過去パート〉は1950~60年ごろ。山田監督が修行時代を過ごした映画全盛期の撮影所で働く3人の男女(菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎)の青春。〈現代パート〉はコロナ禍に翻弄される、かつて撮影所で青春時代を過ごした彼ら3人(沢田研二、宮本信子、小林稔侍)の現在の人生模様。映画はそのふたつのパートを往還し、映画とは何か? それに関わった彼らの人生とは何か? という命題を織りなしていく。 本作に関わったスタッフ・キャスト全員が、〈映画の神様〉の存在を信じていることが伝わってくるさり気ないワンカットを積み重ねた125分、100年の映画の歴史に感謝し、次の映画100年の安寧を祈らずにはいられない気持ちにさせてくれた『キネマの神様』。山田監督、90作品まであと1本、心から待望しています。

21/7/31(土)

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